転職先をどう考えればよいか?
前回は若手・中堅SEの転職について「今の仕事は新しい技術の仕事ができない,自分のプラスにならない,面白くないなど○○が嫌だからという理由で転職したり,20代後半になってもこれという技術力を持っていないのに転職したりするのには疑問がある。それでは転職を繰り返すことになりかねない」と述べた。今,仮に30歳近いSEが転職を考えているとすると,その人はまだSE人生の約1/6を歩んだだけである。転職してもこれからのSE人生は5/6もある。これからのSE人生の方が長い。もっと若いSEはさらに長い。SEの方々は,転職を考える際はこれからのSE人生の設計も考えて慎重に決めてほしいと思う。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20090529/330955/
若手・中堅SEが転職を考えるときは,誰しも悩み,家族や友人などに相談する。また,これはと思う転職先の候補企業についてその仕事内容や会社の規模,給与,勤務場所などを調べ,自分にとってどの企業がよいかいろいろと考える。だが,IT業界や企業の中途採用などの実態をまだよく知らない若手・中堅SEも少なくないと思う。そこで今回は「IT企業はどんなときに中途採用をするのか」「どんなSEを求めているか」「転職先をどんな視点で考えればよいか」について筆者の考えを述べたい。
IT企業はどんなときに中途採用をするのか
考えられる転職先の企業はたくさんある。事実,電車の広告や転職雑誌にもたくさんの企業が載っている。ハードウエア/ソフトウエア・メーカー,販売代理店,大手ユーザーのシステム子会社,独立系ソフト会社,コンサルタント企業,通信系企業,IT教育会社などいろいろある。ユーザーの情報システム部もある。
これらの企業の中から転職先はどこの企業がよいか考えることになるが,すべての企業が中途採用を行なっているわけではない。では,IT企業はどんなときに中途採用をするか。それは(1)主に企業の経営戦略から「今年度はこの分野を伸ばしたい。新規分野に進出したい。そのためにSEを何人中途採用して増やしたい」と言ったケース,(2)あるプロジェクトを受注したが「SEが足りない。そのために○○ができるSEを中途採用したい」といったケースの二つである。
そのときにIT企業は自社のWebサイト上でSEを募集したり,人材紹介会社に依頼して人材募集を行う。(1)のケースでは,中堅SEだけでなく,それほどスキルのない入社2~3年の若手SEも対象になる。しかし,(2)のケースでは即戦力の中堅SEが主な対象である。このように企業が中途採用するか否かはビジネスに左右される。今のように不景気なときや先行きが不透明なときは中途採用は減少する。
どんなSEを求めているか
中途採用である以上,言うまでもないが一般に即戦力となり得るSEを企業は求める。SE歴2~3年の若手SEについては,ある程度の技術力と潜在能力のある人間を採用する。これが大前提である。
しかし,企業がSEに求めているのは技術力だけではない。多くの企業は技術力に加え,考え方がしっかりしている人間を求めている。すなわち,システム開発や販売活動などの職務ができ,顧客に信頼されるしっかりした人間である。すなわち,技術力はもちろんだが,リーダーシップや顧客と壁を作らないコミュニケーション力,交渉力,顧客の気持ちが分かる感性など人間的側面も備えたSEである。
筆者が知っている企業の中には,(PRをするわけではないが)応募者に拙書「SEを極める」を読んでから応募してくれという企業が何社かある。その企業の経営者は「応募者には技術にしか興味のないSEが多い。それでは困る。我が社はこんなSEを求めているということを応募者に知ってもらうためにそうしている」と話されていた。そこまではしていなくても多くの企業は「技術力+人間的側面の力=技術力を超えたしっかりしたSE」を求めている。そんなSEは,中途採用している企業ならどこでも採用されるはずだ。従って,若手・中堅SEは今の会社でそんな技術を超えたSEになる努力をするべきであろう。
転職先をどんな視点で考えればよいか
転職先にはメーカー,システム開発会社,コンサルなどいろいろな企業がある。それらの企業は,一言でIT企業と言っても,いろんな側面を持っている。例えば,日本企業か外資系企業か,大企業か中小企業か,製品を販売している会社かソフト開発やシステム開発などサービスをする会社か,元請けか下請けか,営業部門がある会社かない会社か,ベンチャー的企業か数十年の歴史のある企業か,都会の企業か地方の企業か,新人を採用する企業かそうでないか,従業員1人当たりの売り上げが高い企業か低い企業か,経営陣の経営方針はどうかなどである。それによって,その企業の経営のやり方や仕事のやり方も様々である。
転職先を選ぶ際に,考慮すべき点が少なくとも三つある。
1点目は「自分の転職理由がかなえられる企業であること」だ。自分の能力をもっと生かしたいというキャリアアップ目的の人は,それがかなう企業。給料など処遇面の不満や将来に不安を感じて転職する人は,その面で満足ゆく企業。○○の技術をもっと伸ばしたい人は,それが出来る企業。家庭の事情で勤務時間などに制約があれば,それが解決できる企業である。100%かなえることは難しいかもしれないが,それなりにそれがかなえられる企業を探し,中途採用の門を突破することが肝要である。
だが,転職理由がかなえられそうな企業があっても,自分がその企業でどの程度通用するかは,別問題である。「自分がそこでやっていける企業であること」が2点目である。技術力や能力が通用するかどうかは言うまでもない。それに加えて転職先の会社の文化や風土が自分に合うかどうかという点も考慮しなければならない。例えば,日本企業で育ったSEが外資企業に転職したとする。会社の仕組みや仕事のやり方,英語文化,売り上げ・利益の厳しさ,会議のやり方についていけなくなることは往々にしてある。逆に,外資系企業で育ったSEが日本企業で社風の違いで苦労することもある。SE歴2~3年の若手SEであれば文化や風土の面はあまり気にすることはないと思うが,30歳近いSEになるとこれまでの会社の仕事のやり方に少なからず染まっているから十分考えた方がよい。文化や風土は,長いSE人生を見ると非常に重要である。それが合わない企業に入社したSEは,30代後半,40代になっても重要な仕事は任せてもらえないものだ。
そしてもう一つ,注意することがある。企業の中には,SEを物扱いする企業,顧客が大切と言いながら実際は顧客を顧客とも思わない企業,売り上げ至上主義の企業,離職者が多い企業,社会的責任などほとんどど考えない企業,安易にリストラをする企業,教育を重視しない企業など様々な企業がある。そのような企業に入社したSEは大変である。従って,「多面的にいろんな情報を集め,どんな企業を十分把握し納得すること」が重要である。これが3点目である。インターネットで調べたり,人材紹介会社の話を聞いたり,その企業の人事の人や経営者の話を聞いて判断するだけでは不十分である。文字や言葉で格好よいことを並べても,実態はまるで違う企業も中にはあるからだ。集めた情報の裏を取ることが重要である。例えば,その企業と付き合っているパートナの人の話を聞く,知人や元社員の話も聞くといったことだ。そうでないと,せっかく転職したのに「こんなはずではなかった」ということになりかねない。実際,それで苦労したSEは少なくない。
以上いろいろ述べたが,転職を考えている若手・中堅SEの方は,転職先はぜひ慎重に考えてほしい。SEの中には転職先を安易に考えて転職を繰り返している人がいるが,それではスキルは伸びないし,企業もそんなSEには重要な仕事は任せないものだ。それでは本人も不幸だし,日本の情報化戦力の喪失にもなる。
そして,SEマネジャも人材紹介会社も若手・中堅SEに適切なガイドをしてほしい。新卒で会社に就職したときは,会社やSEという職業について学校の先生や先輩などに聞いたり本で仕入れた程度の知識で就職したわけだが,転職するときはそうではない。それなりに会社やSEという職業が分かっているはずだ。
ぜひ,自分に合った転職先を見つけて前向きに力一杯働いて,その企業に貢献し,次の時代の日本の情報化を担ってほしい。そんな思いもあって,あまり誰も触れない若手・中堅SEの転職について筆者が日頃感じていることを前回と今回書いた。現在,転職を考えている,あるいはこれから転職を考える若手・中堅SEの方々に対し,何らかの役に立てば幸いである。
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[2009/06/02]