第26回 大好きな北海道で、楽しく働くつもりだったのに
働く環境の向上を考え、大都市圏から地方への転職を夢みるITエンジニアも少なくありません。しかし地方には、そもそも求人案件数が少ない、大都市圏と比較すると仕事の規模が小さくなる傾向があるなどの状況も見られます。
http://jibun.atmarkit.co.jp/lcareer01/rensai/tenhon26/tenhon01.html
今回は、念願かなって北海道へIターン転職したものの、わずか数カ月で再び転職を考えることになったMさんの事例を紹介します。
■念願どおり北海道へIターン、なのに再び転職を考えるMさん
ずいぶん転職を急いでいるなぁ。これがMさんの第一印象でした。「すぐにでもいまの会社、A社から転職したい」という内容で転職相談を受けたのですが、経歴書を見るとその数カ月前に転職したばかりなのです。東京のソフトウェアメーカーから、北海道のA社へのIターン転職でした。
一般的なアドバイスとして、まずは転職したばかりのA社で仕事を続けることを勧めましました。しかしA社の経営状態は思わしくなく、社員の退職が相次ぎ、入社したばかりのMさんに業務が集中してしまっているとのことでした。業務もよく分からないままに、クライアントからのクレーム対応まで行う状況だったようです。
Mさんは40歳前半、東京の精密機械メーカーで10年以上にわたり、回路設計およびソフトウェア開発を経験してきました。あるとき、長期休暇を利用して訪れた北海道が気に入ってしまい、いずれは北海道で仕事を見つけて定住したいと考えるようになりました。
製品の企画から設計、開発、テストまでひと通り担当したMさんは、技術スキルに加えて語学力をつけようと退職し、海外でボランティア活動を行いました。帰国後、再度ソフトウェアメーカーで開発職に就き、ITスキルのブランクを埋めつつ北海道への移住活動、転職活動を開始しました。
その結果、希望どおり北海道のA社に転職できたのですが、上に述べたような状況で、再度の転職を考えているとのことだったのです。
■Mさんの失敗の原因は
Mさんは高いスキルを持ち、人柄が良く、考え方も前向きで大変魅力的なエンジニアです。A社だけでなく、いくつかの求人企業で選考が進んでいたようでした。なのになぜ、このような失敗が起きてしまったのでしょうか?
A社への転職活動の経緯を詳しく聞いてみると、地方ならではの問題点が浮かび上がってきました。
そもそも、Mさんの希望を満たす求人案件が少ない
高スキルのMさんは、求人案件に対してオーバースペックの人材になってしまう
Mさんの希望は、「メーカーで開発を続け、これまでに培った研究開発ノウハウを若手に受け継ぎたい」「さらに語学力を生かすことができればそれに越したことはない」というものでした。
しかし北海道には、開発拠点を持つメーカー数が極端に少ないのです。開発拠点があったとしても、ポジションがそう多くは存在しないのが現実です。加えて、Mさんの豊富な経歴がオーバースペックとなり、逆に企業から敬遠されてしまう傾向がありました。
これらの問題点のため、Mさんの転職活動は難航し、A社を選ぶときの判断が甘くなってしまったようなのです。
実はMさんには、A社のほかにもう1つ入社を希望していた会社、B社がありました。しかし難航する就職活動からくる焦りのため、よく比較検討せずに、先に内定の出たA社に決めてしまったという経緯がありました。
■難航したMさんの転職活動
どうしても北海道で働きたかったMさんは、複数の人材紹介会社に登録し、東京で定期的に開催される北海道主催のU/Iターンフェアにも参加し、情報収集を行っていました。しかし上記のような問題から、思うように進みません。
せっかく獲得したある会社の内定を、ほかの会社の内定を待っている間に、入社時期の関係で逃してしまったこともありました。面接の感触はかなり良かったはずなのに、実際は内定が出なかったこともありました。Mさんはだんだん余裕をなくしてきました。
そんなとき、Mさんは人材紹介会社にA社を紹介されました。北海道に本社があり、開発拠点があり、Mさんの経験を生かすことができ、マネージャというポジションで働くことができる。これがA社の求人です。Mさんの希望どおりであり、A社もMさんをどうしても採用したかったようです。選考はとんとん拍子に進み、見事内定を獲得しました。
ところがもう1社、Mさんを獲得したいと考えている会社が存在しました。こちらも北海道に本社をもつB社です。A社と事業内容は異なりますが、Mさんの経験を生かしながら北海道で働けるとのことでした。
B社とMさんは、先に書いた北海道主催のU/Iターンフェアですでに面接をしていました。社長と直接会話したMさんは、B社のビジョンに深く共感することができました。かなり前向きな話まで進んでいたようですが、実質的な選考は開始していなかったのです。
ここでMさんは大いに迷いました。B社に応募したい、でもA社の内定はチャンスであり、逃したくない。A社の条件は決して悪くない。結局、過去の失敗を考えて、B社には丁寧に辞退を伝え、A社に入社することにしました。
数カ月後、A社の経営状態悪化のため、私のところに相談に来ることになったのです。
■B社に再チャレンジ、そして内定
「A社のことを、事前にもっと調べておくべきでした。あのときB社を辞退せず、選考を受けていれば……」とMさんはくやんでいました。
そこで私は、「あらためてB社を受けてみてはいかがでしょうか」と提案しました。Mさんはその提案を喜び、再チャレンジを決意してくれました。
こういう状況では、「人柄」という部分がとても大きな力を持つと思います。私との面談や、その後の電話でのやりとりで、Mさんの本当に誠実な人柄がうかがえました。B社の選考を辞退したときの丁寧な姿勢にも、その人柄は表れていたのです。
少々調整に時間がかかりましたが、もともと前向きに進んでいたお話です。無事に内定を勝ち取ってB社に入社したMさんは、現在も重要なポジションで活躍しています。
今回の例のような遠隔地への転職については、すべての情報を手に入れることは困難です。私たち人材紹介会社はなるべく多くの情報を伝えられるよう努力していますが、最終的に決断をするのは転職する皆さん自身です。
しっかりとした情報収集をし、決断の際の大切な基準を持っておくことをお勧めします。