コンサル転職の要点を3講師が解説 - キャリアチェンジ特別セミナー
11月8日、東京・竹橋パレスサイドビルにて、毎日コミュニケーションズとK.I.T.虎ノ門大学院が共催する特別セミナー『キャリアチェンジ特別セミナー ~IT領域からビジネス領域への挑戦~』が開かれた。ITエンジニアからコンサルタントへの転職をテーマとした同セミナーには、若手エンジニアを中心に約100名が参加。エンジニアとして培った経験を生かしながら自身の付加価値を飛躍的に高める方法について、3人の講師のアドバイスに熱心に耳を傾けた。
http://journal.mycom.co.jp/articles/2008/11/17/carrier/
アーキテクトとしての付加価値を高めよ - 豆蔵 山岸氏
豆蔵 代表取締役社長 山岸耕ニ氏
第一部の講師は、豆蔵で代表取締役社長を務める山岸耕ニ氏。山岸氏は「ITを武器にビジネス領域に切り込む - 要求開発のすすめ」と題する講演を行い、「要求開発」の視点から、システム開発が抱えている課題や将来像、エンジニアの目指すべき姿について提言した。
要求開発とは、「要求はビジネス価値に基づいて"開発"されるべきもの」という理念のもと、業務の全体像を把握し、システムを最適化していくための実践的なアプローチ。山岸氏は、オブジェクト指向技術を中心としたシステム開発やコンサルティングに携わるかたわら、「要求開発アライアンス」の理事として、新しい開発スタイルの提案やITエンジニアの意識向上を積極的に提言している人物だ。
同氏は、まず、今日のITシステムと業務の現状について、「人間系とIT系が複雑にからみあい、サイボーグ化している」と指摘。「分かりやすい例では、ハンバーガー・ショップがある。顧客から注文を受けて、ハンバーガーを提供するまでに、接客、注文処理、在庫確認、商品提供など、人とITが渾然一体となった1つの大きなシステムを構成している」と語った。
これは、システム開発という視点で見ると、「ITはサブシステムとして、大きなシステムを支えている存在」となる。こうしたなかでは、システムを個別に設計しているだけでは最適化を図ることができず、全体構造を設計したあと、サブシステムとしてのITを設計していくという発想が求められることになる。つまり、「一段上のシステムに視点を上げ、付加価値を出していくことが、システム設計の現場においても、エンジニアの姿勢としても求められる」ということだ。
その具体的な方法論となるのが要求開発である。山岸氏は、これまでのシステム開発のやり方を「ヒアリング&とりまとめアプローチ」と呼び、担当者個人の限られた視野で、その場かぎりのロジックに基づいて設計された結果、「作っても使われないシステム」が多く作られることになってしまったとする。
これに対し、要求開発では、業務領域にソフトウェア工学の手法を適用することで、ゴール、業務、システム、プロセスを見える化することを目指す。実際には、プロジェクト・メーキングにはじまり、ビジネス・ユースケース作成、業務フロー作成、概念モデリング、システム・ユースケース作成、分析モデル作成、非機能要件抽出などといった流れとなる。
セミナーでは、このうち、プロジェクト・メーキングの実践例として、ステークホルダー・リスト(利害関係者が納得ずくでプロジェクトを開始・進展させるためのリスト)、要求体系図(要求の全体構造を一望するための図)、ゴール記述(要求体系図から具体的な数値目標を導き出すための表)の作成方法を解説した。
そのうえで、山岸氏は、これからのエンジニアに求められる資質の1つとしてアーキテクトを挙げながら、「ITエンジニアは、抽象化、構造化というきわめて高度なプロフェショナリティを備えているもの。ITで培ったエンジニアリング・アプローチを業務の世界に持ち込むことで、違うビューを見せられることがITエンジニアの付加価値となる」と語った。
"偶発的な機会"を作り出せ - キャリアインキュベーション 荒井氏
続く第二部では、キャリア インキュベーション 代表取締役社長の荒井裕之氏が登壇。「自分らしいキャリアをつくる - キャリアはデザインできない」と題する講演で、キャリアデザインができない理由、自分らしいキャリアをつくるためのヒントを紹介した。
キャリア インキュベーション 代表取締役社長 荒井裕之氏
荒井氏は、リクルートに10年間勤務し、広告事業、情報ネットワーク事業の営業マネージャーを担当。その後、転職情報雑誌『type』の発行元であるキャリアデザインセンターに転職し、営業責任者、専務取締役、関連会社の社長を務め、2000年にキャリア インキュベーションを創業した「キャリア」に関するプロフェッショナルだ。
そんな同氏によると、現在「キャリアデザインはできない」ものになっているという。「キャリアデザインとは、目標を決めて、それに向かって遡って計画を立て行動すること。だが、現在は、世の中がすさまじいスピードで変化しており、技術やソリューションもすぐにコモディティ化している。そうしたなかでは、個人がみずからのキャリアの計画を立てて、ひたすら走っていくのはおよそ不可能になっている」(同氏)
実際、ITの世界を見ても、例えば、ERP(Enterprise Resource Planning)アプリケーションはパッケージとして急速にコモディティ化し、かつてのように高いコンサルティング・フィーをとるようなビジネスは成り立たなくなった。また、SIPS(Strategic Internet Professional Service)と呼ばれるようなWeb専門のコンサルティング会社も、今は見る影がない。近年の金融危機にまつわる企業の倒産やM&Aを見ても、「会社の寿命自体が、個人のキャリアよりも短い」という状況なのである。
そんななかで、荒井氏は、キャリアデザインに変わる新しい考え方を身につけておくことをすすめる。それが「プランド・ハプンスタンス・セオリー(Planned Happenstance Theory: 計画された偶発性理論)」である。プランド・ハプンスタンス・セオリーとは、米スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が提唱する理論で、「キャリアの80%は、予期しない偶然のできごとによって形成されている」という前提に沿って行動しようというものだ。
「これまで、キャリアを決められない人は、優柔不断、決断力がないなどと思われてきたが、プランド・ハプンスタンス・セオリーでは、これをオープンマインドとして肯定的にとらえている。つまり、予期せぬ(偶発的な)出来事を学習の機会としてとらえ、出来事を意図的に(計画的に)生み出す積極的な行動をしようということだ」(荒井氏)
では、その偶然を積極的につくりだすための行動とは何だろうか。荒井氏は、それを「5つの行動」──好奇心を持つこと(Curiosity)、持続すること(Persistence)、楽観的に考える(Optimism)、柔軟でいること(Flexibility)、リスクをとる(Risk-Taking) として紹介。具体的には、それぞれ、「新しい学習機会を模索し、とことん突き詰める」、「あきらめずに努力し、学び取る」、「新しい機会を実現可能と捉える」、「信念、概念、態度、行動を変える」、「結果が不確実でも行動に移す、失敗をおそれない」ことを指している。
さらに、荒井氏は、自分らしいキャリアをつくるための考え方として、「3つの輪」──「Need」、「Can」、「Want」を紹介。例えば、Can(自分の経験の棚卸し、保有しているスキルや知識)と、Want(充実感を感じたとき/こと、やる気・やりがいを感じるとき/こと)との包含関係を探ることが、キャリアをつくるヒントになるとアドバイスした。
「Can×Wantを理解していないと、転職も失敗しがち。よくあるケースは、転職そのものが目的化した人や、勝ち負けにこだわりすぎる人、周囲に踊らされる人。そうならないためにも、5つの行動と3つの輪を参考にしながら、自分のキャリアをつくっていってほしい」(荒井氏)
重要思考で挑め - K.I.T.三谷宏治氏
休憩を挟んでの第三部では、K.I.T.虎ノ門大学院の教授の三谷宏治氏が登壇し、「重要思考 - SEからコンサルタントへ」と題して講演。三谷氏は、ボストンコンサルティンググループやアクセンチュアで経営戦略コンサルタントとして国内外数十社のプロジェクトに携わってきた自身の経験を踏まえ、経営の視点でのビジネス戦略の発想法を聴衆に問いかけながら実践的にアドバイスした。
K.I.T.虎ノ門大学院 教授 三谷宏治氏
同氏はまず、IT業界の特徴として、技術の進歩が速く、取り扱う範囲が広いという難しさがあると指摘。「このことは、速さについていくという点で若者にとって有利である反面、放っておくと、技術寄りになり、たこつぼ化するおそれも併せ持っている。また、発想法としても、決まったことを進めるだけのトップダウン思考に陥りがちな面がある」という。
そんな中だからこそ、エンジニアは、「キャリアチェンジを常に意識し、コンサルタントとしてのスキルを身につけていくことが重要だ」とする。三谷氏によると、コンサルタントの語源をたどると、共に座る者といった意味となるという。
「企業にとってコンサルタントとは、企業のよりよき意思決定をアドバイスし、その実行を支援する者ということ。例えば、ITコンサルタントは、システムの構築フェーズにおいて、アーキテクチャの決定、開発体制の構築、進捗管理体制の構築、要件と予算・納期とのトレードオフの提示という4つを担っていく。これが、ITコンサルタントにとっての"勝負所"となる」
同氏によると、特にこうした上流行程が難しいのは、やりたいこととできることのギャップが見えにくいという事情がある。例えば、経営者にとっては「10年後を見据えることは難しい」ことが常識になっていても、システム開発の現場では「10年動くシステムを作る」ことが求められたりする。また、ある機能を実装しないと売上げにどのくらい影響がでるか、実現するシステムによってROIが何倍になるかといったトレードオフも示しにくい。
では、そうした勝負所を攻めきるためには、どういったスキルが必要になるのか。三谷氏は、その1つとして「重要思考」を上げる。重要思考とは、最も大切なことを決定し、そこを中心に、戦略、効用、施策という3階層で意思決定を行っていく思考法のこと。セミナーでは、この思考法について、K.I.T.虎ノ門大学院で実際に行われている例題を参加者に投げかけるスタイルで解説した。
三谷氏が出した例題は、「トヨタ自動車をもっと強くする戦略とは何か」。ヒントとして、同社が売上げ(台数)世界一、時価総額世界一であることを説明し、「重要思考では『重要』なところで『継続的な』差があるかどうかに注目する」ということのみを伝えた。参加者は自身の考えを3分間でまとめ、さらに3分間で隣どうしでディスカッションを行った。
三谷氏は、「中国で勝負する、安い車でインドで勝負するなどいろいろ考えたと思うが」としながら、この場合のポイントは「ナンバー1であることを強みとして、なるべく大きな土俵で勝負すること」と説明。具体的には、スケール・メリットを出すために、固定費的な研究開発費や広告宣伝費などに注目し、継続的な差別化を図ることが適した戦略になるとした。そして、これをさらに重要思考で掘り下げていくと、安全への広告投資(同社の安全性評価GOAなど)、燃費へのR&D投資(ハイブリッド車、燃料電池車など)、インフラ投資(ITSなど)が具体的な施策になる。
セミナーでは、このほかにも、ガソリン税導入を報じる大手新聞の論調の読み解き方や、自動車メーカーがCRM戦略の1つとしてシッョピング・センターを設置することの意義などについての例題も示された。
最後に、三谷氏は、「キャリアチェンジの壁が厚いことは確かだ。だが、IT業界が若者にとって有利であるように、コンサルタントへのキャリアチェンジにおいても、未経験であることが有利な条件となる場合もある。コンサルタントに求められるのは、経験よりも、戦略的な発想がいかにできるかだからだ」と強調。キャリアチェンジの壁を越えるためにも、日々の業務のなかで重要なことは何かを考え続けたり、その技術をビジネス・スクールなどを利用して具体的に習得することをすすめた。