第18回 「汎用機エンジニアに未来はない」はウソである
技術の移り変わりが激しいIT業界。ほんの数年前に聞いた技術用語が、すでに過去のものになっていることもあります。「自分の持っている技術はまだ通用するのか?」と不安に感じている人は多いのではないでしょうか。
http://jibun.atmarkit.co.jp/lcareer01/rensai/uso18/uso01.html
私自身、キャリアコンサルタントとして、「会社やプロジェクトの方針で、新しい技術を身に付けられない」と悩んでいるITエンジニアからの相談を受けることが少なくありません。
しかし、「新しい技術」であれば何でもいいのでしょうか? これまでに身に付けた「古い技術」は、何の役にも立たないのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。今回は、汎用機のシステム開発を行うITエンジニアが、その経験を大いに生かしてキャリアチェンジ転職に成功した例を紹介したいと思います。
■汎用機エンジニアの山根さん
山根さん(仮名)は30歳のITエンジニア。私が会ったときには、新卒で入社して8年目でした。それまで一環して、汎用機によるシステム開発に従事していました。
学生時代の就職活動では大手メーカーや金融機関を片っ端から受けたそうです。しかし不景気だったこともあって思うような結果を出せず、知人の紹介でソフトハウスであるA社に入社したとのことでした。
A社は社員数50人ほどの、3~4次請けの立場での開発案件を中心に扱う会社です。組織立った教育制度のようなものはありませんでした。学生時代、経済学を専攻していた山根さんは、プログラムのイロハから始め、実務を通じて基礎知識を学んだのでした。
もともと学習意欲の高い山根さんは、貪欲に技術知識、業務知識を身に付けました。入社5年目からは、1つのサブシステムのリーダーを任されるようになりました。メンバーは1~2人と決して多くはありませんでしたが、山根さんは士気の高いチームをつくることに充実感を覚え、着実にキャリアアップしていました。
■会社の業績不振のため、転職を考える
そんな山根さんに転機がやってきたのは半年前のことです。原因はA社の業績不振でした。
A社の社長はメーカー系システムインテグレータ(SIer)の出身であり、当時の人脈によって、それまで安定して案件を得ていました。しかし、クライアントである精密機器メーカーが社内システムの海外へのアウトソーシングを決定したため、定期的な案件の受注が困難になってしまったのです。
年間4カ月分支給されるはずのボーナスはカットされ、給与の遅配も始まりました。従業員の将来を気遣ってか、普段は気の強い社長自らが転職活動を勧め始めたのです。
■オープン系へのキャリアチェンジを計画
この機会をとらえ、山根さんはオープン系システム開発エンジニアへのキャリアチェンジを計画しました。
山根さんは、汎用機による開発経験しかないことをコンプレックスに感じていました。職場では、山根さんより5歳若いオープン系の開発経験のある後輩が「仕事ができる人!」と周りのITエンジニアからチヤホヤされています。「汎用機にしか触れたことがない自分。そのうち仕事がなくなるのではないか?」と、肩身の狭い思いをしていたのです。
キャリアチェンジを目指して転職活動を始めた山根さんですが、そう簡単に良い結果を得ることはできませんでした。面接を受けた企業のほとんどで、「年収はダウンするけど大丈夫?」と聞かれたそうです。簡単には承諾できないような大幅なダウンだったそうです。現在の生活や将来のことを考えると、とても厳しい条件が提示されていたのでした。
■新しい環境で初めての技術を扱うリスク
そんなとき、山根さんは弊社の人材紹介サービスを利用し、私と会うことになりました。
面談ではまず、今回の転職活動で実現したいことを聞きました。山根さんの回答は、以下の2点でした。
年収をダウンさせたくない。
オープン系エンジニアにキャリアチェンジしたい。
どうしてオープン系のシステム開発をしたいのでしょうか。その点についても聞きました。 「雑誌やインターネットを閲覧するとオープン系の求人ばかりが目立ち、将来が不安。年配のCOBOLエンジニアの転職先が見つからない」というのが主な理由でした。
これ以上汎用機の開発エンジニアを続けていても、世間に評価されるキャリアの形成は難しいと考え、オープン系エンジニアへのキャリアチェンジを目指すようになったとのことでした。
さまざまな視点から山根さんにインタビューしたうえで、私から転職市場の状況を踏まえてのお話をしました。
率直にいって、最初から給与を下げずに未経験であるオープン系エンジニアへ転職するのは難しいと思ったからです。新しい環境で、しかも初めての転職で、まったく触れたことのないテクノロジを扱うリスクについてもお話ししました。
転職先では、中途入社の社員には即戦力を求める傾向が強いと考えられます。人間関係を構築できていない場所で、初めて扱うテクノロジで信頼を得るには、並々ならぬ努力が必要です。
■汎用機の開発経験は、大きな武器になる
加えて、これまで身に付けたスキルについては自信を持ってアピールした方がいいと助言しました。
「汎用機エンジニアには未来がない」とネガティブに考えていた山根さんに、汎用機エンジニアの需要についてお話ししました。山根さんの経験に興味を持つ会社は決して少なくないと思ったからです。何しろ、30歳の若さで上流から下流まで汎用機の開発経験を積んでいるのです。転職に当たって、この経験とスキルを武器にしない手はありません。
しっかり話し合った結果、山根さんの転職活動の方向が定まりました。汎用機の開発経験を生かし、給料を下げずにオープン系へのキャリアチェンジが可能な会社を目指すというものです。
私はさっそく、この方向に合致する求人を、潜在的なものを含めてリサーチしました。汎用機からオープン系へのリプレース案件を扱う大手SIer、汎用機とオープン系の両方のプロジェクトを受託しているSIerなどをピックアップしました。そして企業の概要や募集の背景を山根さんに説明し、数社を選んで書類を送付しました。
面接対策をしたうえで選考に挑んだ山根さんは、見事メーカー系SIerの基幹システム再構築プロジェクトのリーダー職で内定を取ったのでした。給与も少しですがアップです。
しかし、転職活動はまだ終わりではありません。内定の取得後、再度面談の場を設けることにしました。山根さんの希望であるオープン系エンジニアへのキャリアチェンジが本当に可能かどうか、確認することにしたのです。
面談後、山根さんはうれしそうに面談の内容を教えてくれました。「社内の教育制度を存分に使ってオープン系の知識を習得してほしい。最初のプロジェクトでは汎用機の開発経験を生かし、プロジェクトの旗振り役として活躍してほしい」との言葉をもらったそうです。こうして山根さんの新たな活躍の場が決まったのでした。
■身に付けた経験を生かして転職活動を
今回は、汎用機エンジニアのキャリアチェンジの事例についてお話ししました。
山根さんの8年もの汎用機での開発経験のように、身に付けたスキルをまったく生かさずに転職活動をするのか、大いに生かして転職活動をするのかで、結果は大きく異なります。
転職活動をする際には、身に付けたスキルをどのように生かすかを考えることが大事なのですね。
さまざまな事例を紹介し、検証した本連載「『転職でキャリアアップ』のウソ・ホント」は、今回で最終回です。
いろいろなケースがあったと思いますが、シリーズ全体を通じていえるのは、ITエンジニアの皆さんそれぞれに、学んできたことも転職で実現したいことも異なるということです。転職に一定のセオリーはありますが、それに自分を無理に当てはめようとすると、残念な結果になってしまう可能性は少なくありません。
そんなリスクを避けるために、セオリーにとらわれない転職活動をしましょう。人材紹介会社のコンサルタントを活用して、視野も広げるのも1つの手だと思います。皆さんの転職の成功をお祈りしています。