第21回 妻の仕事の都合上、転勤はできません!
「妻の仕事の都合上」絶対に転勤できない、「中部地区」「ITアーキテクト」しか受け付けない。もう少し柔軟な考えがあれば……。[アデコ 原田福二,ITmedia]
2008年09月02日 19時25分 更新
http://www.itmedia.co.jp/career/articles/0809/02/news106.html
私は、名古屋を中心とした中部エリア(愛知・岐阜・三重)を担当している人材紹介会社のコンサルタントです。今回は首都圏とは違った観点から、「地方ならではのITエンジニアの転職失敗事例」を紹介します。
事例1:「妻の仕事の都合上、転勤はできません」鈴木さんの場合
鈴木さん(仮名・29歳)は地元である中部地区の理工系大学を卒業後、名古屋に本社を置く独立系システム開発(SI)会社に入社し、約6年間Visual Basicをベースとしたオープン系システムのプログラマおよびSEとして勤務していました。しかし会社の業績不振によって将来に不安を感じ、転職活動を開始しました。
鈴木さんが転職先に希望していたのは、次の2点でした。1つは同じ不安に悩まされたくないので、なるべく大手の安定した会社で仕事をしたいという点。もう1つは、中部地区は自動車関連メーカーが多いため、今後は自動車関連のECU(電子制御ユニット)ソフトウェア開発に携わりたいという点でした。
私は、鈴木さんの希望を受け入れてくれる企業として、大手自動車メーカー100%出資のエンジニアリング子会社を推薦しました。この会社は、オープン系システム開発の経験があってポテンシャルが感じられる人であれば、組み込み系開発の経験がなくても採用していく方針で、まさに本人の希望にぴったりの会社でした。
応募した鈴木さんは、WebでのSPI試験をクリアし、順調に面接に進みました。
この会社の面接は1回のみで、担当役員、担当部門長、人事担当者がすべてそろったものでした。転職を考えた理由、6年間オープン系システム開発で培ってきたスキルについて、今回組み込み系ソフトウェア開発に携わりたい理由などを聞かれたそうです。質問には明確に答えることができ、担当部門長から説明を受けた仕事内容も希望どおりで、大変満足のいくものでした。
しかし、最後に担当役員から「この会社では、将来転勤の可能性がありますが、問題ないですか?」と質問されたときのことです。鈴木さんは「妻の仕事の都合上、転勤はできません」といい切ってしまったのです。奥さんが地元の小学校の教師であるため、転勤はできないとの理由でした。
転勤拒否のため……
翌日知らされた面接結果は、不合格。理由はただ1点「転勤拒否のため」とのことでした。
その後も鈴木さんは、ほかの自動車関連部品メーカーの組み込みソフトウェア開発職に応募しましたが、「組み込み開発の実務経験がない」および「転勤不可」という理由で、すべて不合格になってしまいました。
現在、鈴木さんは元の会社にとどまり、引き続きオープン系システム開発のSEとして勤務しています。
私は、1度目に不合格になったとき、彼に質問しました。「君の人生はたった一度だけですよね。なぜ、奥さんに自分の思いをぶつけないの? 説得しないの? 愛知県が本社の会社なら、転勤してもいずれ戻ってくるのは間違いないのに。絶対、後で悔やむことになるよ」
彼はこう答えました。「すごく残念です。後々悔いが残るかもしれません。でも、自分は妻の家に養子として迎えられました。だから、あきらめるより仕方ないんです」
この返事を聞いたとき、私はいいようのない複雑な思いにとらわれました。
勇気とチャレンジ精神を持って
私は、転職を真剣に考えるなら、もっと勇気が必要だと思います。
ITエンジニアとしてもっと研さんを積み、もっと自分を高めたいのなら、簡単にあきらめるべきではないと思います。鈴木さんがITエンジニアとして大成することは、家族にとっての幸せでもあるのだから。なぜ、自分の熱い思いを奥さんにぶつけなかったのでしょう?
最初に応募した企業は、不合格の理由を「転勤拒否」としていますが、果たしてそれだけのことだったのでしょうか。担当役員は、こんな受け身の姿勢が仕事にも表れるのではと思い、不合格にしたのではないでしょうか。鈴木さんのことを、自分の意思に従って行動できない消極的な人と判断したのではないでしょうか。
私から皆さんへアドバイスしたいのは、「いつもチャレンジ精神を持ち、誠意と情熱を持って人と接すれば、必ず自分の希望する仕事は見つかる」ということです。
事例2:「ITアーキテクトを目指したい」山本さんの場合
山本さん(仮名・31歳)は、地元である中部地区の有名国立大学工学部を卒業後、大手SI会社の中部支社に入社。約10年間、中部地区の大手メーカー向けアプリケーション開発に携わってきました。
前半の4年間はリアルタイムOSとC言語による組み込み制御システム開発を、後半の5年間はJ2EEによるWeb系業務システム開発を担当してきました。そして、1年前から現在に至るまでは、地元大手企業の基幹系システム再構築プロジェクトの「チーフアーキテクト」として、Linux、Oracle DatabaseとJ2EEによるWeb系システムのアーキテクチャ策定を担当していました。
そんな山本さんが転職を決意したのは、以下の理由からでした。
チーフアーキテクトの役割を果たしていた山本さんは、今後も「ITアーキテクト」を目指しいろいろなことを学んでいこうと考えていました。まだまだ定義があいまいなところのあるITアーキテクトですが、山本さんが目指すのは、「顧客の課題を把握し、システムに最適なグランドデザインを施し、技術的側面からチームを統制する技術者」とのことでした。山本さんの目標は、顧客のニーズを満たし、品質の高いシステムを作り、メンバーの成長を促し、「困ったときはあの人に相談しよう」といわれるITエンジニアになることでした。
しかし、会社ではITアーキテクトという存在に対する評価が低く、このままでは学びのチャンスが非常に少ないと山本さんは考えたのでした。
中部地区限定、ITアーキテクト限定
山本さんは転職後の勤務地を、ご両親やご家族の希望もあり地元を離れることができないので、自宅から通勤できる場所と限定してきました。
私は正直、「この転職は難しいな」と思いました。しかし、山本さんの夢の実現に少しでも協力できればと思い、ITアーキテクトまたはテクニカルアーキテクトを募集している会社を探しました。
しかし、地元中部地区では1社も見つけることができませんでした。山本さんの目指すITアーキテクトを募集する会社は、コンサルティングファームかITベンダ、大手システムインテグレータ(SIer)に限定され、中部地区を本社とする会社ではITアーキテクト限定での募集はありませんでした。
1社、大手コンサルティング会社が出資した、SAPをベースに地元企業に基幹系システムの再構築を提案する会社があり、そこにITアーキテクトとしての採用を打診しました。しかしその会社では、ITアーキテクト専任のポジションはなく、プロジェクトリーダーとの兼務であるならば採用を考えてもよいとの返事でした。
このような中部地区での現状を山本さんに説明し、もう少し幅を広げた、
ITアーキテクトのみでの求人案件は皆無なので、プロジェクトマネージャ/プロジェクトリーダーとの兼務で探す
首都圏(東京)であればITアーキテクトを募集する企業も多いので、首都圏を中心に求人企業を探す
という2案を提案しましたが、「私は地元でITアーキテクト職にこだわりたい」として受け入れてくれませんでした。
1カ月ほどが過ぎたころ、大手SIerと外資系ベンダの日本法人の中部支社でITアーキテクト職の募集があると聞きつけ、山本さんと相談して応募することになりました。
しかし、書類選考での結果は2社とも不合格でした。理由は2社同一で、ITアーキテクトで採用するのなら、アプリケーション開発の基盤技術、データセンターインフラストラクチャ、ネットワークインフラストラクチャなどさまざまな分野の技術・経験、かつ大規模プロジェクトでの技術支援の経験が必要とのことで、山本さんの場合は技術支援経験が求めるものに足りないとのことでした。ただし、山本さんは技術的に素晴らしい素養を持っており、ポテンシャルも高いと考えられるので、プロジェクトリーダー候補としてなら面接したいというのが2社からの返事でした。
山本さんは、この申し出も辞退しました。
その後、私からは推薦できる求人案件がなく、山本さんは同じ会社に勤務しているようです。
転職には柔軟な考え方も必要
これは、山本さんが優秀なITエンジニアだったからこそ陥った失敗だと思います。
山本さんは約10年間のシステム開発経験があり、かなりの自信を持って転職活動に臨んだと思います。要素技術についても、OS、データベース、Javaを中心としたプログラミング、ネットワークなど多分野にわたる経験がありました。そして技術リーダーやチーフアーキテクトとしてマネジメントもこなし、担当した顧客も大手メーカー、大手卸業、教育機関など多岐にわたり、大規模プロジェクト(開発要員約200人)も経験し、広い視野でさまざまな案件に対応できるITエンジニアでした。
しかし、山本さんは職種をITアーキテクトに、勤務場所も中部地区に限定したため、希望どおりの求人案件はほとんどありませんでした。その中から応募した企業は、グローバル展開するSIerと外資系ベンダの日本法人で、非常に採用ハードルが高い企業でした。
もし山本さんが職種をもう少し幅広く考えてくれたなら、もし勤務場所を首都圏まで広げて考えてくれたなら、転職は成功していたと思います。
自分の将来の目標に向け、仕事へのこだわりがあることは十分理解できます。家族を大事にする気持ちも分かります。しかし、すべての条件を満たす求人案件は多くありません。
転職を決意するに当たり、もう少し柔軟な考え方ができなかったものかと、非常に残念でなりません。
人材紹介会社のコンサルタントは、求職者のキャリアプランを考え、ベストな求人案件を紹介するのが仕事です。しかし地方で求人案件を紹介する場合、求職者の実力以外の制約によって、求人企業とのWin-Winの転職の実現が難しいという現状があります。
特に勤務地限定となると、なかなか希望する求人案件を紹介することが難しく、それまで培ってきた知識や経験を生かす案件を紹介できない場合が多々あるのです。
最後に、中部地区での転職市場について述べておきます。中部地区に多い自動車関連メーカーなどでは、ものづくりという観点から品質には大変厳しく、人材を必要としていても採用ハードルは決して下げないという姿勢は崩していません。
大手自動車メーカー関連企業間の転職も、互いの企業同士の遠慮もあり難しい状況で、転職希望者にとってはなかなか厳しい市場です。