第2回 2次請けから元請け。IT業界でステータスを上げたい!
転職理由に着目した連載「転職目的別・これが私の生きる道」。「第1回 もっと給与をアップさせたい!」に続いて、今回は「ステータスを上げたい」という目的を取り上げます。
http://jibun.atmarkit.co.jp/lcareer01/rensai/tenmoku02/tenmoku01.html
IT業界のプロジェクトは、たくさんの企業の協力体制で成り立っていることが多いものです。その中で働くITエンジニアには、さまざまな立場や役割の人がいます。企業が中途採用をする場合にも、候補者の立場や役割などから自社が採用したい人材か否かを判断していると聞きます。
今回は、さまざまな立場や役割がある中、ステータスを上げることをテーマに転職をした人の実例を挙げ、成功のポイントを解説したいと思います。
■自分の会社に誇りを持てない瀧田さん
瀧田さん(仮名)は29歳のITエンジニア。大学の情報系学部を卒業後、ソフトハウスでオープン系のシステム開発に従事して6年になります。転職を希望し、当社の人材紹介サービスに登録に来たのです。
「瀧田さんが転職を考えている理由を教えていただけますか」
「転職を考えている理由は、ひと言でいうと、自分の会社に誇りを持てないというか……」
瀧田さんはそういって口ごもるのです。
「会社に誇りを持てない? いまの会社が好きではないのですか」
「好き、嫌いの問題ではなくて、いまの職場では自社の名前を出せないのです。自社と顧客の間に大手シンクタンクが入っていて、私もそのシンクタンクの人間として仕事をしているもので……」
当時瀧田さんがかかわっていたプロジェクトは、証券会社向けの基幹システムの導入に関するものでした。瀧田さんの会社は、エンドユーザーからこの仕事を請けた大手シンクタンクの協力会社としてプロジェクトに参画しているとのことでした。
プロジェクトは外部設計のフェイズで、この工程に参加している14人のうち、11人は瀧田さんの会社の社員だそうです。なのに表向きはシンクタンクの受注案件になるので、自社の名前を出しづらいとか。
「他社の名前で仕事をしていても、『やりがい』が持てないというか……。例えば、現在のプロジェクトで残した実績は、当社の実績にはならないでしょう。いや、本当はなるんでしょうけど、会社のWebサイトやパンフレットに顧客の実名を出してはPRできないでしょうし……。一生懸命頑張ってカットオーバーを迎えたときも、顧客から感謝の言葉をかけられるのはシンクタンクの協力会社としての私ですよね。やっぱり自分の会社の名前で仕事がしたいなと思います」
瀧田さんは仕事のやりがいを得るため、協力会社の立場から元請けの立場へと「ステータスを上げる」ことを求めていたのです。
■直請けでやりがいを持って働ける環境に
そこで私は、システムの構築をエンドユーザーから直接請け負える会社の求人をいくつか提案しました。瀧田さんはその中から4社に応募しましたが、1社を除いてすべて書類選考で見送られてしまう結果に。残った1社も、面接で不合格となってしまいました。
瀧田さんが応募した4社は、業界でもトップクラスの大手企業ばかりでした。非常に難関であることは事前に分かっていたのですが、それでも瀧田さんは落ち込んでいました。
やはり瀧田さんにも、大手企業へのあこがれがあったようです。私は瀧田さんに、会社の規模は重視せず、エンドユーザーから直請けで仕事ができることを第一に考えて転職活動をするよう勧めました。
大手企業の顧客には、経済界を代表する大企業が少なくありません。顧客がその業界でのリーディングカンパニーであれば、先進的な大規模プロジェクトにかかわる機会も多いかもしれません。でもいかんせん、大手企業に入るのは難しいのです。それならプロジェクトの大小にこだわらず、さまざまな分野に目を向けるなど、少し観点を変えれば十分にチャレンジ可能な会社はあると思ったのです。
瀧田さんは新たに数社の企業に応募し、その中で証券会社向けのシステム開発事業に特化した企業に転職しました。社員数約200人の、決して大手とはいえない会社ですが、証券業務のフロントからバックオフィスまでの実績が豊富な会社でした。
数カ月たって、瀧田さんからメールをもらいました。自社に誇りを持ち、やりがいを感じられる仕事を得たことへの感謝のメールでした。
正社員として、当事者意識を持って働きたい清水さん
もう1つ事例を挙げましょう。清水さん(仮名)は30歳、当社に相談に来たときは派遣スタッフとして、外資系ネットワーク機器メーカーでプリセールスをしていました。その5年前に、営業職からIT業界にキャリアチェンジした人です。
「清水さんが転職を考える動機を教えていただけますか」
「いまは派遣社員なのですが、やはり正社員になりたいと考えているのです。5年前は未経験でIT業界に入るのは難しくて、まずは派遣からと思っていましたし、いろいろな職場を経験できるのも魅力でしたが」
「では、いま正社員になりたいのは、どんな理由からですか」
「『安定』もありますが、やはり一番の理由は『やりがい』でしょうか」
清水さんいわく、周りにいるメーカー社員の関心事は、新製品に搭載された先端技術や他社製品とのシェア争い、今年度の業績やボーナスの額などだそうです。派遣社員の清水さんは、そういった話題にいまひとつ関心を持てないそうです。
派遣社員としてでなく、正社員として、強い当事者意識を持って働きたい。自社の新技術やシェアにもっと関心を持てるようにして、やりがいを持って働きたい。清水さんの希望はそういうことのようでした。前述した瀧田さんと同様、仕事のやりがいを得るために「ステータスを上げる」ことを求めていたのです。
■日系企業の正社員は、年収が低い?
清水さんは、現職と同様のネットワーク機器メーカー数社に応募しました。でも書類選考はすべて不合格で、面接の依頼は1つもなかったのです。その大きな理由は英語力でした。
ネットワーク機器メーカーの多くは外資系であり、業務に英語力が必要とされるケースは多々あります。清水さんも外資系メーカーに就業していたため、英文のメールを読むことには慣れていましたが、英会話となるとまったく経験がありませんでした。清水さんの会社では、本社とのコミュニケーションは正社員が担っていたからです。今度は清水さんが正社員を目指しているわけですから、かなりの英語力が求められるのです。
私が清水さんに提案した求人には、数は少なくとも日系企業がありました。しかし清水さんは、外資系企業ばかりを選んで応募していました。なぜなのでしょうか。
「実は、年収が合わないかと思って……」
何と、清水さんは年収を下げたくないとの意向があって、年収が高いイメージのあった外資系企業にばかり応募し、日系企業への応募を避けていたのです。当時、清水さんの派遣社員としての年収はかなり高いもので、転職で正社員になることによって年収が下がる可能性がありました。清水さんはこのことを気にしていたのです。
私は清水さんに、中長期的に考えて会社選びをすることを勧めました。英語があまり得意ではないのに外資系企業にこだわり、チャンスを逃していては本末転倒です。もしいったん収入が下がったとしても、今後追いつくことも追い越すことも可能です。何よりも、メーカーの正社員として働くことで得られる『やりがい』は、お金には代えることのできない価値なのではないでしょうかとお話ししたのです。
結局、若干の収入ダウンはありましたが、清水さんは日系のネットワーク機器メーカーへプリセールスエンジニアとして転職しました。決して大手企業ではなく、シェアも外資系の著名な製品に水をあけられている状況とのことでした。でも清水さんは自社製品のシェアを高めるため、自社のビジネスを拡大させるため、日々充実した毎日を送っているそうです。
■転職には、テーマが必要
瀧田さん、清水さん、2人に共通している成功のポイントは、最終的には転職のテーマがぶれなかったことです。
瀧田さんも清水さんも、仕事に「やりがい」を感じるため、ステータスを上げたかったのです。大手企業にこだわったり、収入にこだわったりと、若干の迷いはありましたが、それでも2人ともステータスを上げることに関しては揺らぎはありませんでした。これが、瀧田さんと清水さんの生きる道だったのです。
会社選びの要素はたくさんあります。人によって、その優先度はさまざまでしょう。多くを求めながら成功する人もいますが、通常は求めれば求めるほど可能性が小さくなってしまうものです。生きる道が決まっているなら、トレードオフできるものはトレードオフして、その道に集中すべきです。
皆さんは、自分なりの「生きる道」を見つけていますか?