第11回 目先の給与アップにつられて転職、そしてすぐ後悔
転職活動で苦労した末に、ようやく入れた新しい会社。なのに、想像していた仕事内容と異なるなど予想もしなかった事態に。入社したばかりなので、今後のことを考えるとすぐに転職することもできない……。そんな話を聞いたことはありませんか。
http://jibun.atmarkit.co.jp/lcareer01/rensai/why11/why01.html
ITエンジニアが転職を考えたさまざまな理由、その課題と解決のプロセスを紹介する本連載は今回で最終回です。「入社後、間もなく転職を考えた理由」と題し、2つのケースについて解説します。
■CASE1 入社後、会社の方針と自分の目指す方向が異なることに気付く
大友さん(仮名)は、携帯コンテンツ運営会社に勤める30歳のITエンジニアでした。大学卒業後、新卒でシステム開発会社に入社して以来、一貫してシステム開発を経験しています。当時の会社は4社目でした。年齢の割に転職回数が多めだといえます。
1社目は、業務系システムの開発を幅広く手掛ける会社でした。ユーザー企業に常駐し、1~2カ月の短期プロジェクトにプログラマとして参加することが多かったといいます。上流工程を経験したいと考え始めた大友さんは転職を決意し、2社目のシステム開発会社に転職。会社の規模は小さいのですが、古い付き合いのある特定の企業から直接仕事を請けていました。そのため小規模プロジェクトながら、要件定義から携わることができました。
ところが不運なことに、この会社は大友さんの入社後1年で業績が急激に悪化し、倒産してしまいました。失業した大友さんは、経済的な問題で実家に戻り転職活動をすることにしました。
その結果、地元で有力な情報雑誌を発行する会社に入社が決まりました。これが3社目です。今後拡大予定のインターネット向けシステム開発職として採用されたのです。
同社はインターネット事業を始めたばかりでした。事業自体が小規模だったため、大友さんの仕事の内容は、Webシステムの開発だけではなくコンテンツの企画からデザイン、コピーに至るまで、インターネット媒体運営のすべてにかかわりました。そんな状態で3年間勤務しましたが、大友さんの中では「ITエンジニアとして、特定分野の技術を究めたい」という思いが芽生え始めました。そして転職を意識するようになったのです。
■大企業からの誘い
そんなとき、大友さんは、かつてコンテンツ制作の関係で取引があった会社から誘いを受けました。大友さんの仕事ぶりを評価し、「君のような人材に来てほしい」というのです。
ここは携帯電話のコンテンツを提供する会社で、特定分野においてはトップの実績を持っています。大友さんも以前から注目していた会社でした。「技術を究めたい」という希望がかなうかどうかは不明でしたが、業界最大手からの誘いということで面接に行くことにしました。
話はとんとん拍子に進み、2週間ほどで内定をもらうことができました。提示された年収は570万円。何と80万円のアップです。
かつて取引があったため、会社の内情もよく分かっていました。社員の定着率が高いという評判を聞いていたので、長く勤められるという安心感もありました。
業界大手の企業からの誘い、しかも大幅年収アップという話に、大友さんの心は揺らぎました。結局、大手携帯コンテンツ会社への入社を決めることになりました。
■キャリアアップって、何だろう?
入社後、大友さんは、開発エンジニアとして部門に配属されました。ところが、エンジニアというのは名ばかりで、実際に行う仕事は、画面やレイアウトの修正といったものがメインだったのです。年下の上司から振り分けられる仕事は、定型的な業務のみ。前職以上に仕事内容への不満が募っていったそうです。
業界大手、定着率、年収アップという点のみで転職を決めたことへの後悔の念をかみしめつつ、大友さんはキャリアアップの意味を深く考えるようになりました。
大友さんは、奥さんと子どもの3人家族です。家族のためにも、簡単に会社を辞めて転職することはできません。転職回数も増えたので、これ以上の失敗は許されません。しかしこのままでは、成長のできない環境で腐ってしまいます。
大友さんは今回の転職を振り返り、何が悪かったのかを真剣に考えてみました。失敗の要因は何だったのか? 給与条件、定着率といった環境面ばかりに気を取られてはいなかったか? と自問自答を繰り返し、次のような考えに至りました。「仕事を選ぶポイントとして重要なのは、待遇ではなく、自分の目指す将来像が描けるかどうかである」
■真のキャリアアップを目指して再び転職
大友さんは、再び転職活動を開始することにしました。3カ月間という短い在籍期間が不利であることは承知のうえです。前回とは異なり、将来のキャリアパスを重視して活動を進めることにしました。これまで我流で身に付けてきたスキルを洗練されたものにしたいと考え、方法論やノウハウに実績のあるシステム開発会社複数社に応募することにしました。
心配とは裏腹に、大友さんは企業から高く評価され、結果として中堅のシステム開発会社から内定をもらうことができました。
この会社は、大規模なインターネット開発やビジネス系のシステム開発を多く手掛けた実績を持っています。前回の転職での反省を踏まえ、内定後に配属予定部門の方に時間をもらい、会社や部門の方針、任せてもらえる仕事などについて詳細に確認をしました。思っていた以上に将来のキャリアパスが明確に描ける環境であること、目標にできるエンジニアが多そうなことが分かり、『ここなら頑張れる』と確信した大友さんは、入社の決意を固めました。
CASE2 給与はアップしたがスキルはダウン。これってキャリアアップ?
布施(仮名)さんは、37歳のITエンジニアでした。専門学校を卒業後、新卒でシステム開発会社に入社。当初はメインフレームの開発を中心に行うプログラマでした。次第にオープン系の仕事に就きたいと考えるようになり、ソフトウェアハウスに転職。続いて社内SEとして転職しましたが、やはりシステム開発に専念したいと考え、システム開発会社に転職しました。
この会社では、社内SE時代に培った会計システムの経験を買われ、ERP導入エンジニアとして活躍するようになりました。約5年間ERPの導入に従事し、最大5人のメンバーを率いるプロジェクトリーダーとしての経験もしました。
ところがこの会社は、親会社の業績不振に伴い、大手派遣会社に売却されることになったのです。会社の営業方針も大きく転換することになりました。待遇に少し不満のあった布施さんは、このことから4回目の転職を決意したのです。
布施さんは以前から付き合いのあった人材紹介会社とコンタクトを取り、転職活動を開始しました。その結果、3社から内定をもらい、最終的にはユーザー系システム開発会社に入社することを決意しました。理由は、年収が100万円アップし、比較的残業が少ない点で申し分のない待遇だったからです。
■再び転職を考えることに
転職から1年が経過したころから、布施さんは、再び転職を意識するようになりました。
布施さんは、入社後すぐに外販向けの部門に配属され、小規模の開発プロジェクトのメンバーとしてアサインされました。前職で携わったプロジェクトと比べると、規模と質の面で大幅にキャリアダウンすることになります。ユーザー系の会社ということで、親会社の大規模システムの開発に期待していた布施さんは、想定外の展開に戸惑うばかりでした。勤め始めたばかりなので1年間様子を見ましたが、一向に状況が変わる気配がありません。意を決して、上司に自分の将来のキャリアパスについて相談をしてみました。具体的な異動の相談もしましたが、まったく受け入れてもらえませんでした。
37歳で5社の社歴は少ないとはいえません。1年前に転職したばかりの会社を早くも退職するとなると、次は6社目。とはいうものの、キャリアダウンしたままの状態では意欲的に仕事に取り組むことができません。どちらにしてもリスクが生じるというわけです。
■待遇よりも、自分にとって大切なもの
布施さんは、前回の転職活動を振り返ってみました。直接のきっかけは会社の方針転換ですが、始めのうちは将来のキャリアパスを意識した転職を考えていました。
ところが、複数の会社から内定を受けるうちに、重視するポイントがキャリアパスから条件面に移ってしまったのです。最終的には条件面と残業の少なさをポイントにして、転職先を決定したのでした。そのときに詳しい仕事内容や配属部門の状況を確認しておけば、仕事内容やキャリアパスという視点で会社を選べたかもしれません。
こうして解決策を見いだした布施さんは、転職活動を再開することを決意しました。特に今回の反省点に留意し、仕事内容や社内でのキャリアパスを重視して会社選びを行うことにしました。給与などの条件面も重要ですが、布施さんは、自分にとってもっと大切なものに気が付いたのです。
■2人の共通点は、「課題」と「解決策」のずれ
ここまで、2つの事例を紹介しました。CASE1の大友さん、CASE2の布施さんの失敗には、共通する点があります。それは、転職を考えた当時の目的(課題)と、内定企業の決定要因(解決策)にずれが生じてしまったことです。
大友さんの場合は、「スキルを高めたい」という考えから転職を意識しました。ところが、大手企業から誘いがあったことで考えが変わり、安定性や年収アップ、定着率などの環境面で転職を決断してしまいました。つまり、本来考えた転職の目的(課題)と内定企業の決定要因(解決策)にずれが生じたため、前職での課題が解決できなかったことが失敗の要因であると考えられます。
布施さんの場合も、当初は将来のキャリアパスを考えて転職活動をしていました。しかしその目的と異なり、結局は給与の大幅アップを重視して企業を選択し、課題の解決策である仕事内容の確認をおろそかにしたことが失敗の要因であると考えられます。
つまり、転職において重要なのは、その転職が現在の課題に対する解決策になっているかどうかであると考えられます。
転職市場が活性化し、複数の内定を手にする人も少なくありません。そんなときこそ、表面的な待遇に惑わされず、結論を出す前にもう一度、これまでの課題の解決となる転職であるかどうかを考えてみてはいかがでしょうか。
2007年5月より11回にわたって連載しました「なぜ、彼らは転職を考えたのか」は、今回を最終回とさせていただきます。
連載を通じて、多くの事例を紹介してきましたが、皆さんの参考になる事例はあったでしょうか。転職で困ったときのヒントになればと考えております。最後までご愛読いただき、誠にありがとうございました。