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転職偽装

Kさん(24歳)が転職活動を始めたのは、不純な動機からだったと言っていいだろう。

http://japan.internet.com/column/career/20080204/1.html

KさんはメーカーA社の営業だったが、人事への異動を希望しており、独学で労働法規を勉強したり、人事関係のビジネス書を読みあさったりしていた。とはいえ、どうあがいても実務経験には敵わない。なんとかしてリアルな人事業務を学びたいと考え、転職活動をして各社の採用現場を見学することにしたのだ。

Kさんは、我々にも自分が本当は人事志望であることを黙っていた。転職して他社で人事業務に携わる道もないではなかったが、もうしばらくはA社内での人事異動に期待しようと考えていたそうだ。

彼が我々との面談で困ったのは、転職理由について話し合った時だったろう。現職のA社は業績は好調、転職した人の情報では、従業員にとっては働きやすい会社という評判だった。会社を理由に「転職を考えるようになった」というのでは、説得力がない。

Kさんは「もっとアグレッシブに営業に取り組みたい」と訴えたが、話を掘りさげて「どういう場面で、そう感じたのか」「具体的にどんなスタイルの仕事なら納得できるのか」「A社で自分なりの工夫を凝らすことはできないのか」と質問を積み上げていくと、Kさんの話は徐々につじつまの合わないモノになっていった。

後で聞いた話だが、Kさんはこの時「なるほど、こんな風に突っ込んで質問をしていけば、面接でウソを見抜くことができるのか」などと考えていたそうだ。

我々はやや不自然に思うところもあったが、話に首尾一貫さがなくなってしまうのは若い方にありがちな混乱なので、「頭のなかで考えたことではなく、出来るだけ実体験から生まれた転職理由を説明できるように」と、アドバイスをして、求人紹介を始めたのだった。

しかし、実際に応募する段階になると、Kさんの態度の曖昧さは、いっそう際だつようになっていった。Kさんの目的が「いろいろな採用活動を見ること」だったので、応募する企業がバラバラだったからだ。大手関連なのかベンチャーなのか、モノ作り企業かサービス系か、堅い会社か自由度の高い会社か、我々は苦心しながら求人紹介をしなければならなかった。

面接で返ってくる反応も企業によってまったく違っていた。ある時は「落ち着きがない」、ある時は「おとなしい」、その実はKさんが会社ごとに喋る内容を変えていたのだった。

おかげで我々は振り回されっぱなしだったが、それもKさんがメーカーB社の面接に出向くまでのことだった。

B社の面接で、Kさんはいつものように相手の採用のやり方を観察しようとしていたが、気がつくといつの間にか彼は懸命に自分のことを売り込んでいた。

「他の会社は、どこか表面をつくろっているようなところがあるんですけど、B社の人たちはみんな自然で、自分の会社のことを本音で語ってくれたように思えました…。技術もあるし、経営ポリシーもすごく胸に響いたんです。」

しかし、B社への転職に本気になる前に、質問に答えるかたちで、Kさんはウソの転職動機「もっと積極的に営業したい…」をさんざん説明してしまっていた。もし、Kさんが営業志望だったらそのまま押し通すことも出来たかもしれないが、本当の希望は人事。Kさんは面接後、我々に「実は…」とカミングアウトしてくるしかなかった。

Kさんの本心を知り、我々は膝を叩いたが、B社に対してはすでに出来ることは少なかった。出来るだけKさんが不利にならないように彼の考えを伝えたつもりだったが、予想通りというべきか、B社から返ってきた答えは冷たかった。

「私たちに興味を持ってくれたのが『本音を語っていた』からで、自分はウソの転職動機では誰も納得しませんよ。真剣に応募してくれた他の方々にも失礼ですし。」

この返事を知らせて以後、Kさんからの連絡はパッタリと途絶えてしまっている。もし、再度Kさんが転職エージェントを望むなら、我々はサポートをしていきたいと思っているが、我々が気にしていなくてもKさんは「自分はブラックリストに載っているはず」と萎縮してしまいそうだ。まして、二度と転職エージェントを使わないつもりなら…。手前みそのようだが、転職偽装の代償は小さくないと言えるのではないだろうか。

         

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