第二希望症候群
金融アナリストのSさん(29歳)は我々が紹介した求人を吟味した後、「僕の勘なんですけどね」とシニカルな笑いを浮かべて言った。「第二希望の会社に決まると思いますよ」。
http://japan.internet.com/column/career/20080123/1.html
「初めから、妥協することはありませんよ」我々は返したが、Sさんは肩をすくめて手を振った。
「僕の人生、第一希望が叶ったことって一度もないんですよ。」
Sさんは一流大卒・有力金融会社に勤務しており、端からみれば十分なエリートだったが、自身では「自分は本物ではない」と思っていた。大学も第二希望なら、就職も一番入りたかった金融グループでは不採用で、仕方なく次善の会社へ。果ては、プライベートでも一番好きだった女性には交際を断られ、その女性の親友と付き合うことになったというのだ。
「勝負の時は、いつも第二希望で落ち着く…。そういう巡り合わせなんですよね。」
Sさんは諦めるのに慣れたとでも言いたげに、我々に笑ってみせた。
Sさんが去ったあと、我々は考え込んでしまった。Sさんに企業を紹介する際、実は我々も内心「第一希望のA社は難しいかもしれないけど、第二希望のB社ならいけそうだ」と思っていたからだ。
多くの転職者の方にお会いしていると、つい「第一希望はモチベーションをあげるための目標、落としどころは二番手・三番手あたり」というシミュレーションを組んでしまうことがある。Sさんがそうしたこちらの考えを読んでいたとは思えないが、彼の予言は我々にとって耳の痛いものであった。
「いつも第二希望になってしまう挫折感とは、どんなものだろう?」
我々はSさんの歩いてきたキャリアに思いをはせ、なんとか今回は第一希望に挙げたA社に転職させてあげたい、本当の充実感を味わってほしい、我々はサポートしかできないが、とにかく全力を尽くそうと心に決めたのだった。
Sさんは十分にキャリアのある方だったので、全ての会社で書類選考を突破した。次は面接。金融のなかでも実力・格式のあるA社は、厳しい選考をする企業のひとつである。
直近のA社関連の記事、公開されている資料など、我々は出来る限りの情報を集め、Sさんと連絡を密にとった。我々からの情報がどの程度役に立ったかは疑問だが、こちらの「第一希望を諦めない」という姿勢は、Sさんに伝わっていたと思う。
面接前日にSさんから電話があり、「いろいろありがとうございます。おかげで、明日はベストの自分が出せると思います」という前向きな言葉が聞かれた。
有名企業の採用はキャリア・スキルが最優先で、本人のやる気などには左右されない、というのは大きな誤解だ。求められるキャリア・スキルのレベルは高くなるが、それは最低限のラインを定めるもの。本人の「意欲」あるいは「気迫」は、有名企業・大企業の採用であっても効いてくるものなのだ。
結論が出るまでにはだいぶ時間が掛かったが、SさんはA社から見事内定を得た。
ところが、せっかく第一希望の内定を手にしながら、SさんはA社を蹴ってB社に行くと言い出した。
「どうしてですか?」驚く我々にSさんは落ち着いた声で言った。
「面接に行く前はやはりA社と思っていたのですが、実際にいろいろな方に会ってみると、自分に向いているのはB社だと思ったんです。」
条件面ではA社とB社にそれほど大きな差はない。しかし、仕事の広がりや事業規模は、A社がB社を上回っている。そのことは業界にいるSさんなら分かっているはずだった。
「本当にそれでいいのですか?」「ええ。A社に内定したのはエージェントさんの力添えのお陰。入社したらきっと苦労します。自分にはB社くらいが丁度いいんですよ。」
そう言われてしまっては返す言葉がない。我々はSさんがB社に転職するのを見守るしかなかった。
ひょっとするとSさんが第二希望におさまる人生を送ってきたのは、彼自身の選択だったのかもしれない。背伸びをするより、自分のペースでやっていく方が幸せともいえる。自分を卑下していたのはポーズで、Sさんは第二希望症候群とでも言うべきタイプだったのではなかろうか…。
それでも、今回はちゃんと当初の第一希望の内定を手にし、その上で選んだ会社なのだから、きっと納得感は高かろう。自己満足かもしれないが、我々はそう考えて彼の選択に納得しようとしている。