7人中5人
メーカーA社のとある開発プロジェクトは空中分解寸前だった。
http://japan.internet.com/column/career/20071221/1.html
なぜそれを我々が知っているかというと、A社のプロジェクトメンバー7名(リーダー・マネージャーは含まない)のうち5名が、同時期に我々のところに相談に訪れていたからである。
彼らの話から、プロジェクトの雰囲気が険悪になっているのは明らかだった。
委託先の選定からマネージャー 対 サブマネージャー・リーダーの構図でいがみ合いが始まり、彼らは自分を支持しない部下に、競うように無茶な要求をつきつけてきた。メンバーは当初結束していたが、あまりの忙しさに仕事をなすりつけあい、徐々にお互いを嫌悪するような仲になってしまった。
今では全てのコミュニケーションはメールで行われ、仕事上どうしてもという時以外、プロジェクト内で会話が交わされることはないのだという。
したがって、5人は紹介で登録になったわけではなかった。それぞれが自分の考えで、我々のところへたどり着いていたのだ。
一方、同じプロジェクトにアサインされていると言うことは、エンジニアとして似たようなキャリア・スキルを持っているということを意味している。当然ながら転職の志向は全員ほぼ同じだ。5人は同じ職場で働き、同じエージェントを使って、応募先の9割が共通でありながら、互いにまったくそのことを知らずにいた。
こうした状況のなか、我々は面接のアテンドに、十分気を配らなくてはならなかった。仕事をもつ求職者が、一日で出来るだけ多くの面接をしたいと考えるように、企業も同じ求人に応募してきた人の面接を、出来ればまとめてやりたいと考えている。
しかし、同じ会社で一時間おきにA社の5人の面接を組むようなことをしてしまうと、会社の受付・待合室・エレベーター、どこかで彼らが顔を合わせてしまう可能性が高い。いや、それ以前に同じ日に同じプロジェクトの5人が休みをとろうとするのは不自然すぎる。有給休暇をとっているのを見た他のメンバーが「こいつも転職活動しているな」と疑うような事態は、さけなくてはならない。
我々は企業側にお願いをして面接日が重ならないようにし、会場で顔を合わせないよう面接人数を絞り、我々から5人にメールを出すタイミングをずらすといったところまで配慮をしていた。
もちろん電話をしている時も気がぬけない。妙なことを口走ってしまえば、同じプロジェクトのなかに登録している人がいることが分かってしまう。職場の状況について、誰からどこまでの話を聞いたかをしっかり頭にたたき込んでおかなければならない。
正直なことを言えば、ヒヤリとした瞬間も何回かはあった。内輪の話に思わず「そうなんですってね。」とあいづちをうちそうになったり、同じ人に同じ会社の面接を二度セッティングしてしまいかけたこともあった。
我々は常に平均台の上を歩いているような緊張を強いられたが、なんとか誰からも不審に思われることなく、転職活動は続いていった。そして、ついに5人のなかから内定者:Sさん(28歳)が出ることになったのだ。
Sさんは、彼が言うところの「地獄のような職場」から抜け出せる喜びからか、内定が決まるとすぐに転職を公言してはばからなかった。くわえて「リクルートエージェント」を利用していたことも…。
残った4人はしばらく気まずそうな顔をしていたが、各々がSさんに「実は俺も」「私も」とカミングアウトをしはじめた。そして、必然的に「担当エージェント、誰?」「あ、同じ人だ」「え?お前も?」「そうだったんだあ」と会話が続いていき、三日後には5人全員がお互いの転職の進み具合を知ることになったのだった。
いまも求人紹介・転職活動は続いているが、我々が必死に分からないようにしていた事実が判明してから、メンバー間では会話をする機会がふえ、職場の雰囲気は一気に改善されたという。
5人のうちのひとりは、無邪気にも「どうしてみんな一緒に転職活動をしているって教えてくれなかったんですか?そうすれば、もっと早く仲直りできたし、情報交換しながら転職活動できたのに」と我々に不満を伝えてきた。
さんざん気を遣ったあの苦労は何だったのだろうと虚しい気もするが、まあ仕方がないことだろう。我々としては、難しい状況のなか、情報漏れで辛い思いをする人がいなかったことを喜ぶしかないのである。