あこがれのITコンサルになれたはいいけれど
アデコ
大田耕平
2007/11/8多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
http://jibun.atmarkit.co.jp/lcareer01/rensai/tenhon14/tenhon01.html
企業の採用活動が活発になっている今日このごろ。即戦力だけを求めるのではなく、中長期的な人材育成も考慮してポテンシャル採用を行う企業も増えています。あこがれの職種へのキャリアチェンジを考えるにも、以前よりハードルが低くなっているといえるでしょう。
その一方で、転職には成功したものの、理想と現実とのギャップに悩む結果になってしまう人も多くなったように思います。
夢を実現するための大事な転職活動、転職先は慎重に選ばなくてはなりませんね。
今回はキャリアチェンジに挑戦し、あこがれの企業へ入社はしたけれど、すぐに再度の転職を考え始めた人たちの話をしたいと思います。
■ITコンサルタントになりたい!
山名さん(仮名)は32歳のプロジェクトリーダー。国立大学の工学部を卒業してから現在に至るまで、1回の転職を挟んで10年間、流通系システムと組み込みソフトウェアの開発経験を積んだエンジニアです。プログラマからシステムエンジニアそしてプロジェクトリーダーと、順調なキャリアを積まれてきておりました。
当時の会社では、山名さんは若くして役職に就き、部下からの信頼も厚かったそうです。プロジェクトもここ最近は大きなトラブルもなく、社内のメンバーとも良好な人間関係を築いており、文句のない職場環境でした。
しかし、もともと上昇志向の強い山名さんには、以前から内に秘めていた強い思いがありました。それは「いつかはITコンサルタントになりたい!」というものでした。現在の仕事は基本的に大手システムインテグレータからの2次請け案件。リーダーとしてチームを束ねることはあっても、業務分析からかかわるような仕事はほぼ皆無だったそうです。また、32歳という年齢を考え、今後は特定の業界の業務知識を身に付けたいと考えていました。
一念発起して転職活動を始めた山名さんは、なんと業界でも有名な外資系コンサルティングファームの内定を取得したのです。慣れ親しんだ会社、同僚との別れを惜しみつつ、新たなチャレンジに大きな手応えを感じて、山名さんは転職していきました。
■オンラインゲームって、どう開発するの?
西田さん(仮名)は、大手電機メーカーの研究部門に勤める30歳のITエンジニアです。情報系の大学院を卒業後、新卒で入社。研修後に研究部門に配属され、以後一貫して次世代ネットワークに関するアプリケーションの技術開発に携わっていました。
自社内での研究にとどまらず、先端技術に関する書籍を執筆するなど会社の枠を超えて活躍していた西田さんは、若手ながら業界の技術動向セミナーの講師を任されるまでの専門家となっていました。
しかし実は西田さん、根っからのゲーム好き。学生時代の研究テーマがオンラインゲームにまつわるものだったこともあり、「オンラインゲームはどのように開発されているのだろう?」と、常々疑問に思っていたとのことでした。
「やっぱり、オンラインゲームにかかわる仕事がしたい! キャリアチェンジするなら若いうちがいい」。思い立ったが吉日とばかりに、西田さんは転職活動へと踏み出しました。その結果、経験こそないものの、ゲームに対する熱い思いと高いポテンシャルを評価され、国内屈指のオンラインゲーム制作会社に内定。大手電機メーカーという世間的には安定した企業を脱して、ゲームプログラマとして転職したのでした。
■「サーバエンジニア」に応募
斉藤さん(仮名)は22歳。情報処理系の専門学校を卒業後、人材派遣会社に登録し、スーパーバイザーとして大手ISPに常駐してコールセンターの管理業務に携わっていました。持ち前のコミュニケーション能力を生かし、ヘルプデスクやクライアントへのサポート業務、スタッフの勤怠管理業務に力を発揮していました。
しかし斉藤さんは、自作PCを作ったりWebサーバを構築したりが大好きなテクニカル志向。ネットワークやサーバなどインフラに強いITエンジニアになり、新しい技術に触れたいと考えて転職を考え始めたのです。
転職サイトで「サーバエンジニア」という職種の求人を発見してさっそく応募。若さと技術への関心を大きく評価されて選考は順調に進み、みごとサーバ管理パッケージ製品を持つソフトウェアベンダから内定を獲得したのです。入社後はサーバエンジニアとしてクライアントのインフラ構築にかかわれると思い、斉藤さんは大喜びで転職したのでした。
■厳しかった現実
山名さん、西田さん、そして斉藤さん。一見すると、皆さんキャリアチェンジに成功したように思えます。しかし、この3人はまたすぐ転職を考えることになりました。
私がこの3人に会ったのは、それぞれが新しい会社に入社して1年もたたないときでした。「転職したけどイメージした仕事と違った」「転職は失敗だったのではないか」、そう思って、相談に来ることになったのです。
外資系コンサルティングファームで山名さんがアサインされたのは、銀行をクライアントとする会計システムの再構築プロジェクト。最初は新たなチャレンジに意気込んでいたものの、すぐに現実の厳しさにぶつかりました。それまで培ってきた開発経験はまったく生かされず、業務知識をゼロから勉強しなくてはならなかったのです。
仕事のスタイルもそれまでとはうって変わって、業務フローの作成と顧客へのプレゼンテーションを繰り返す毎日。それは山名さんのイメージするコンサルタント像とはかけ離れたものでした。業務に詳しいクライアントからは、問題解決を強く求められます。
プロジェクトのメンバーは、年齢は近いものの、新卒でコンサルティングファームに就職し、経験を積んだディレクターです。慣れない業務に戸惑った山名さんは、同僚の信頼をまったく得られず、新入社員同然の扱いをされるようになってしまったのです。和気あいあいとしていた前職とは異なる職場の雰囲気にも、強い違和感を覚えました。そして、仕事に対してすっかり自信を失ってしまったのでした。
西田さんは転職後、すぐにオンラインゲームのプログラミングを任されたそうです。入社早々に持ち前の優れた能力を発揮して会社に貢献し、同僚からも認められ、新しい仕事は順風満帆に思えました。ところが入社して2、3カ月後、疑問が出てきたのです。「自分はこの先、ずっとプログラミングをやりたいのかな?」
そうなのです、あこがれのゲームプログラマになったまでは良かったものの、気になっていた「オンラインゲームはどのように制作されているのだろうか」という疑問は、入社後まもなく解けてしまっていたのです。いくら大好きなゲームとはいえ、その技術に対して新たな興味を見いだせなくなった西田さんは、「この転職は失敗だったのではないか」と思い始めたのです。
斉藤さんが転職後任された業務は、イメージしていたサーバエンジニアとは大きく異なるものでした。メインの業務は顧客のサーバに自社ソフトウェアを導入した後の問い合わせ、運用・監視業務でした。転職活動時に応募した職種名は「サーバエンジニア」だったものの、新規でインフラを構築する業務はアウトソーシング先が担当しているらしく、当面任されることはないとのことでした。
スーパーバイザーの経験で培ったコミュニケーション能力を生かし、即戦力となったのは良かったものの、希望していた業務内容とはまったく違うという状況です。「なんでこの会社に転職したのだろう?」。残念ながら斉藤さんは、いつしかそう思うようになってしまったのです。
■転職には情報収集が必要不可欠
転職してまもなく、再度の転職を考えることになってしまった3人。いったいどのようにすれば、このことを未然に防げたのでしょうか。
山名さんは、ITコンサルタント職の現場レベルでの業務内容を具体的にイメージできていなかったことが、入社後のギャップにつながったのです。西田さんは「ゲームプログラマへのキャリアチェンジ」にのみこだわり、その後の中長期的なキャリアプランを考えていなかったのではないでしょうか。斉藤さんはあこがれの「サーバエンジニア」という職種名に飛びついてしまい、入社後に任せられる業務をしっかりと認識していませんでした。
上記のようなことを予防するためには、情報収集が必要不可欠です。業界本からの知識取得はもちろん、あこがれの職種に就いている人が知り合いにいるのであれば、相談してみるのもよいでしょう。また内定が出た後、オファー面談をしてもらうなどして転職先の業務内容をより詳しく理解すれば、転職後のリスクを最小限に抑えられます。人材紹介会社を利用するのも1つの手です。
新たな職種へのキャリアチェンジ。あこがれや希望の裏には見えないリスクがつきものです。情報収集を怠らず、慎重に行いましょう。