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第9回「『クビ=負け組』ではない~苦しい・・でも勇気がでました・・頑張ります」(2007/11/6)

第9回「『クビ=負け組』ではない~苦しい・・でも勇気がでました・・頑張ります」(2007/11/6)

 前回のコラム「『クビ=負け組』という日本の暗い風土」(2007/10/02)に対し、多くのご意見・ご感想をいただきました。皆さんの心の叫びに共通する点は、「クビ=敗者・脱落者・傷者」という単純かつ集団的な色眼鏡が、多様な個人の価値観・意思・選択を圧迫する日本の社会の中で、己を信じ、誇り高く生きようとする勇気です。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/nagata.cfm?i=20071101cy000cy&p=1

 *ところで、先日サルコジ大統領は、離婚しました。地元メディアも発表の翌日までは、簡単にこれを伝えましたが、その後は誰も話題にしないようです。まさしく、第4回「離婚・愛人・同性愛・・それがどうしたの?」(2007/07/09)です。


堂々と胸をはって生き続けても大丈夫でしょうか?





 「生まれつきの重度身体障害の子供、妻は子供に24時間かかりっきり、自分だけの収入で何とかやらないといけなくなりました。しかし転籍先は業績が悪く、給与も年々減り、退職者が続出。生活安定のために人生3回目の転職を決意しました。大事な家族のために動いた結果に過ぎないのですが、新しい職場でも周りの目は冷たい・・一部の人達からは、転職ばかりして、みたいな陰口もたたかれ、気になって仕方ありません。わたしは日本という狭い視野で世間体を気にしすぎでしょうか。現状仕方ないことでしょうか。それとも、今後わたくしは堂々と胸をはって生き、働い続けても大丈夫でしょうか」


 これは、30歳代後半Aさんの心の叫びです。私は、Aさんに是非お伝えしたい。周りの目は気にせずに、正々堂々と生きてください。恐らく、実際にAさんを冷たい視線で見ている人は少ないのではないでしょうか。仮に、そういう人がいたとしても、多くは、他人の態度を見て呼応しているにすぎません。単に、自分を持たずに、組織の中で波風たてずに流されて生きていたい人たちです。


 また、私は、Aさんがもつ次の3つの点を称賛したい。1つ目は、「勇気」です。最も大切にする家族を想い、父親の立場として、つらい境遇に自ら立ち向かおうとする姿勢です。2つ目は、「自立」です。周りに左右されることなく、自らの意思と責任で動こうとする資質です。3つ目は、「実力」です。30歳代後半の年齢で、転職できるという事実に裏付けされる力です。世の中には、力不足で転職したくてもできない人がいます。今、Aさんに、一番大切なことは、この転職により自ら切り開いた新しい人生の中で、自分の軸を見失うことなく、新職に打ち込み、父親を必要とする子供と、最愛の奥様との絆を強くし、共に過ごす時間を謳歌することだと思います。


群れの流れ」が「個の正論」を踏みつぶす職場


 「ご意見、全く持って同意です。誰も言いたくない正論を言ったことで、社内から四面楚歌に遭うケースが日本には多すぎます。日本人が広く思う失敗に対する認識が変わらないと、この国は無難に波風立てない人以外は幸せになれない世の中になってしまうのではないでしょうか。離婚と一緒にしたくないですが、相性の良悪は必ずあるものです。これからも鋭い意見を期待しています」


 これは、Bさんからの貴重なご意見です。確かに、正論が言えないどころか、議論もできない職場が多いのだろうと思います。このような職場(企業)は、非常に危険です。業績悪化によるリストラ、他社への身売り、経営陣先導の企業犯罪に走るなど、多くの社員・株主・顧客が不幸に巻き込まれるのが落ちです。


 「買収した日本企業の中では、大きな魚の群が動いているようだった。経営者が、正しい方向に、魚たちを導いていればいいが、一旦間違えた方向を示すと、誰もこれに異を唱えることなく、皆が盲目的にその方向に泳ぎだすような組織だった。非常に危険を感じた」・・これは、10年来業績悪化に苦しむ日本企業を買収後、見事に再生させた欧州企業の役員が私に言った言葉です。





 ここで私は、彼にこう言いました。『この会社では、日本人がよく得意気に口にする「和の精神」を忘れた社員が多かったのでしょう』と・・。皆さんもご存知のとおり、聖徳太子の十七条憲法思想にある「以和爲貴=和を以て貴しとなす」では、人の意見は異なるもの、従って議論が大切だと説いています。「上下のものが仲睦まじく、事を論じ合えば、理が通るようになり、そうすれば何事も出来ぬことはない」と第1条が示すように、組織の運営は理でなされ、その理は論議から生まれる。そして、この論議を可能とする場こそが「和」であり、個人の自己主張を否定したり、皆と同じ考え方や行動をするのはよくないと言っているのです。


 皆さんの中には、「日本人は集団の和を大切にしたチームワークが得意で、逆に、欧米人はこれが苦手だ」と思われる方が多いかもしれませんが、実は全く逆です。欧米企業のほうが、聖徳太子のいう「和の精神」、つまり事を論じ合いながら理詰めで仕事を進めるチームワークを日常的に多用します。逆に言うと、社員は、事を論じ合うための能力を常に磨く必要があります。特に、管理職や経営者には、この能力が強く求められます。部下が自分に持ちかける議論に対し、論理的に討議・分析し、これを受入れたり、逆に論破する能力が求められます。日本では、こうした能力に自信がないため、「理屈はいいから、早くヤレ」とコンフリクト(異見の戦い)を避けようとする管理職が多いのかもしれません。皆さん、どう思いますか?

「勇気をいただきました。心・技ともにスキルアップしている充実感とは裏腹に、温室体質の就業先と合わないことが増えてきました。最近『仕事ができる人だから辞めてもらう』という決断をされ、社会すべてがそうだったらどうしようと暗い気持ちになった矢先の励ましの言葉になりました」


 これは、Cさんからの感想ですが、「できるから必要ない」という不条理な理由で、縁切りを一方的に告げられたケースです。日夜スキルアップの努力を続け、仕事ができる人になったCさんにしてみれば、理解しがたく、やりきれない気持ちだと思います。ただ、気を落とす必要はありません。「できるから必要ない」というのは、誰の目から見ても不条理だからです。顧客や株主は、よい仕事をやってくれるプロを求めるはずです。多くの人は、良い仕事をして会社に貢献しその対価として充実感と報酬を得たいと考えるでしょう。このように、多くの人たちがCさんの応援にまわるはずです。






 ただ、この「できるから必要ない」は、一体どこからくるのでしょうか?どう理解したらいいのでしょうか?日本の企業では割りと頻繁に使われる概念であるような気がしてなりません。気になるが故に、何とか解明したくなります。私は、以前ある日系企業の海外事業部長から言われたことを思い出しました。同社は、欧州市場の開拓に向け、欧州に販売子会社の設立を決定しました。設立にあたり、その立ち上げから販売の基盤づくりができる現地マネージャーを探していました。私は、当然その事業分野に精通し、欧州市場で十分な経験とネットワークを持つ即戦力型、つまり「出来るプロ」を探しているものと思いました。しかし、その部長は、「将来、日本からトップとして駐在員を送る考えでいる。従って、その駐在員より出来が良い人・・つまり管理しにくい人は採りたくない」と言われました。私は、その時仮説ながら、この「出来る人はイヤダ」という言葉の裏には、理屈では説明しにくい、以下の文化・心理的な要素があると考えました。

1. 甘えの構造 ? 自立した出来る部下より、自分を頼る不器用な部下のほうが可愛く、見ていて安心だと感じる上司がいる。逆に言うと、彼らは、自分たちに甘え上手な部下を求める。

2. コントロール不能恐怖症 ? 自分より出来が良い部下は、自分の手のひらの上で転がせないと不安を抱き、「使いにくい部下」として枠外に出したがる上司がいる。

3. 議論が苦手症候群 ? 頭や口が切れる部下と議論しても勝てないし、議論するのも面倒だ。部下から論破されると、人格を含めた自分の全てを否定されたような気がする上司がいる。

4. 染色至上主義-自社・自分の息がかからないプロより、自分で育て上げた、こちらの色(文化)に染めあげた部下が使いやすいと感じる上司がいる。

5. プロセス踏襲至上主義 ? 仕事の成果(出来)よりも、自分が教えた、そこに至るまでの「やり方」をキチンと踏襲しているかに異常に神経を尖らせる上司がいる。



 以上、他の要素もあるとは思いますが、皆さんは、どう思われますか?いずれにせよ、この「出来る人はイヤダ」の概念、そして上に示した文化・心理的な要素は、日本社会独特のものです。「日本企業では、仕事ができる社員より、できない社員が重宝されることがある・・その理由は・・・」と、欧米やアジア各国の人達にこれを説明しても、多くの人がその理解に苦しみます。

こちらこそ元気をいただきました


 他にも、多くの皆様から貴重なフィードバックがありました。本来は、その全てに返事を差し上げたいところですが、とり急ぎ、その一部のご紹介に留めさせていただきます。


 「時代を映し出すよい記事です。普通解雇の原因がミスマッチによる場合が多く、日本では『自戒型』の対応を社会から本人が求められることを会社は利用していると感じました。日経新聞でも特集で取り上げると良いと感じます」


 「今、まさに会社で自分がそういう立場(上司や組織の考え方や仕事の進め方と合わずにストレスをためている)だけに、目からうろこが落ちる、全く今までにない考え方で非常に勇気付けられました。全て、日本式が悪くて欧米式がいいとは思いませんが、そういう価値観もある、ということが分かっただけでも元気が出ます。また今日から自分なりに頑張ります。ありがとうございました」





 「全く同感です。私自身、長年就いてきた部署から最近異動を命ぜられ、『組織から見切られた』と気持ちが後ろ向きになっていたところでした。お話にあるように今後も正々堂々と、前向きな気持ちで頑張るようにします。ありがとうございました」


 「『クビ』についてのお考え、とても共感を覚えます。ものの考え方が、欧米ほど『自由』ではないのでしょう。縛られすぎるのでしょう。悪くもないのに、進んで謝ったり卑下しすぎるのも、クビにされる方に落ち度がある、とマイナス評価するのは、その現れだと思います。もっと『ミスマッチ』という見方に、市民権を与えたいです。どんどん発言して、啓蒙してください」


 以上のように、皆さんのおかれた立場や視点は多少異なるものの、全てのご意見・ご感想から共通して読み取れることは、皆さん、それぞれ異なる個人としての価値観・意思・選択をお持ちであること。一方で、「クビ=敗者・脱落者・傷者」という単線的かつ実態が見えない集団の色眼鏡に、大なり小なり圧迫されていること。こうした窮屈な状況にもかかわらず、己を信じ、誇り高く生きようとする勇気をもって生きておられるということです。


 最後になりましたが、私も、こうした皆さんの心の叫びに対し強く共鳴を覚えます。こちらこそ元気をいただき有難うございました。


 枯葉舞う秋冷のパリから感謝します。

         

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