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第8回「『クビ=負け組』という日本の暗い風土」(2007/10/02)

皆さんはクビになった経験はありますか?私は、2度あります。「クビ=人生の恥・傷・敗」と自分を責め、周りが、「敗者・脱落者・傷者」とラベル貼る。こうした単線的かつ理不尽な日本社会の金縛りにあってはいけません。


ブログやってるあんたはクビだ

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/nagata.cfm?i=20070920cy000cy&p=1

 「ラ・プチット・アングレーズ」、これはフランスNo1の売れっ子ブロガー、パリ在住の可憐な英国人女性カトリーヌ・サンダーソンが運営する超人気ブログです(www.petiteanglaise.com)。英国からパリに仕事で派遣され、恋愛やシングルマザー生活、職場での失敗談などを「ブリジット・ジョーンズの日記」風に語るものです。実は、このブログ、ある出来事をきっかけに、アクセス数が急増しました。その出来事とは、彼女の解雇です。






 一昨年、役員秘書として勤めていた会計事務所(Dixon Wilson)が、「ブログが業務に支障を与える」ことを理由に、彼女をクビにしたのです。シングルマザーとして3歳の娘を抱え、パリのアパルトマン購入のため住宅ローン手続きをした矢先、大きなショックを受けたようです。


 ところが、この事実をイギリスの新聞デイリー・テレグラフが掲載、多くの英仏のマスコミがこれに追従、これを見た、彼女へ同情する読者が同ブログへ殺到、こうしたファンの熱心な応援に押されるかたちで、彼女は、不当解雇の訴えを仏労働裁判所に提出しました。理由は、「ブログ運営はプライベートなもの、会社や業務とは無縁。しかも、匿名の登場人物や会社名にしている」というものです。そして、この春、その訴えが認められ、賠償金44.000ユーロ(彼女の給与約1年分)の支払いがDixon Wilsonに命じられました。



クビの多くはミスマッチが原因


 俗に「クビ」といわれている解雇を大別すると、1)懲戒解雇(犯罪行為、着服・横領、経歴詐称等の重大な過失を犯した場合の懲罰)、2)整理解雇(会社のリストラや倒産による人員整理)、3)普通解雇(就業規則に反し信頼関係が破談)の3つです。


 懲戒や整理解雇はどの先進国にもあり、景気や法律の違いにより、国により多少その数が異なるだけです。そこで今回は、3)の普通解雇に着目し、これを「クビ」と呼ぶことにします。ここで注目すべきことは、こうしたクビの原因の多くが、ミスマッチにあることです。会社(取締役会や上司)と本人(従業員)の間に生まれる溝です。「意見・主張・常識の相違」「人間性の不一致」「期待した又は約束された仕事内容や条件のズレ」などです。こうした溝が深まる結果、上司と喧嘩や冷戦、モチベーションの低下、時には集中力を欠き小ミスを犯してしまうこともあります。

 この場合、一般的に欧米企業では解雇を試みます。ただし、「気に食わない」「使いにくい」「馬が合わない」「逆らった」「喧嘩を仕掛けた」「士気がない」「実力が足りない」「業務に支障を与える」など感情的かつ主観的な本当の理由は、法的に通用しません。また「小ミス」は、重大過失でもなく、社長も含め人間誰でも、長い職業生活の中ではあるものです。従って、会社側は、不当解雇で訴えられた場合に備え、十分戦えるだけの正当な法的根拠(就業規則違反など)が用意できはじめて解雇に踏み切ります。冒頭のカトリーヌ・サンダーソンのケースも、単に意見・主張・常識の違いによる関係悪化による普通解雇です。会社側が「業務への支障」に関し、法的な有効性をもつ材料を裁判で示せなかったようです。


クビ大国ニッポンの暗い影


 皆さんの中には、「欧米に比べ、日本ではクビになる人が少ない」と錯覚する方が多いと思いますが、実は全く逆です。確かに、法的な意での普通解雇は少ないでしょう。しかし、次の2つの理由から、日本では、実質的なクビが大量かつ日常的に産まれています。

 1つは、解雇に代わり、「左遷や降格」が増えます。日本企業の雇用契約は、一部の専門職・事業所特定社員・非正社員を除き、「就社型」です。従って、実質的な企業命令として、社員の配置転換や降格、グループ企業への出向や移籍が、頻繁に行なわれます。また社員も本当の理由を知ることなく受け入れます。一方、欧米企業は、国・企業により多少の違いはあれ、多くは「就ポスト型(特定の職種・職位・事業所・報酬条件などを指定)」です。会社は、よほど正当かつ客観的な理由をもって本人の合意を得ない限り、こうした配置転換や移動、つまり、雇用契約の修正は難しくなります。






 2つ目は、解雇に代わり、「自主退社」が増えます。日本では、会社・本人両サイドが解雇を極力避けようとします。解雇に対する強いネガティブイメージがあるようです。会社は、「人使いが荒く、人に冷たい会社」・・本人も、「社会性を欠き、組織から見切られた人」・・というような周りの目をえらく気にします。さらに、「自戒は善、個人の権利主張は悪」とする価値観が加わります。よって、本人は自己の正当性を主張することなく、会社にいづらくなり「引責や一身上の都合」などの大義名分で自主退社です。


 一方、欧米(特に大陸欧州)では、他社から魅力的なジョブオファーがある人を除き、自主的に辞表提出をする人は少なくなります。その理由は次の3つです。1)敗者になりたくない。辞表提出は、会社や上司の主張・判断を認め自ら身を引くこと、つまり敗者になることを意味します。自分に正当性があると信じる限り戦い続けます。2)失業保険を得たい。国・地域により多少事情は違いますが、自己都合による離職、つまり辞表提出では失業保険がおりないためです。3)解雇保証金が欲しい。特に力のある管理職に多くなる交渉解雇です。不当解雇で会社を訴えないことなどを条件に、解雇保証金の受取り狙いで解雇されることを望む人がいます。

クビは心の器を大きくする、決して恥じることはない


 クビがタブー視される日本の感覚では理解しにくいかもしれませんが、世界には、カトリーヌ・サンダーソンのように、決して自分がクビになったことを恥じない人たちが多くいます。


 「あんな会社、切られてすっきりしたよ」「あんなボスとお別れできて運が良かったよ」「あんなボード連中の下では、まともな仕事はできないよ」・・アメリカ映画の1シーンでよく耳にしそうなセリフですが、実際に、私の周りにも、こうしたことをオープンに話す人が多くいます。


 例えば、企業の採用面接、「私は、前の会社をクビにされました。会社の方針と私の考えが衝突したからです。ボスとの関係がうまくいかなかったからです」と、志願者が正々堂々と言ってのけます。その理由は、次の考えが背後にあるためです。

1) 面接する側もされる側もこうしたミスマッチの経験があって当然

2) 人間である限り意見の相違や馬が合わない人がいるというのは当然

3) 意見や人間性が合わなければ、口喧嘩の1つや2つは当然

4) 喧嘩両成敗、実際には会社(上司)・本人どちらが正しいかは誰にもわからない

5) 企業も人間の階級社会である限りパワーハラスメントは当然ありうる

6) 会社と社員(個人)は対等、双方に権利・義務・責任があり、これらを主張する機会を対等に与えられる



 一方、日本では、「あの人はきっと何か問題があったにちがいない」という、左遷・降格・自主退職を含めた事実上クビになった人たちに対する色眼鏡があります。本人も自らこのことに触れません。この単純かつ理不尽な価値観が、日本社会の大勢を占めるならば、何と暗い社会でしょう。一時も早く変えるべきです。皆さんは、どう思いますか。ご意見をお聞かせください。






 クビにあった人も、決して自分を恥じたり、自己嫌悪に陥る必要はありません。勿論、懲戒解雇の場合は、反省してもらうしかありません。しかし、冒頭に示したとおり、クビの多くは、ミスマッチが原因です。しょせん、どんな人とも卒なく付き合うなんて無理な話です。人の好き嫌いがあって当然です。上司や株主と意見や馬が合わないこともあるでしょう。両者が互いに違いを認められなくなった時には、我慢せずに縁を切るべきです。

 その際、会社が社員を見切るか(解雇)、社員が会社を見切るのか(自主退社)という順番や手続きは、問題ではありません。関係が冷えきった喧嘩のたえない夫婦に例えるなら、どちらが先に離婚を申し立てるかというのと同じです。


 また、カトリーヌ・サンダーソンのように、家族や友人など周りに、包み隠さず話すことをお勧めします。私も、2度のクビを、自分らしく生きるために必要だった「過去の小イベント」程度にしか思っていないためか、人から聞かれれば、単なる事実としてオープンに話します。


 最後になりますが、私は、クビを経験した人と話していると、経験ない人に比べ、より豊かな知性と感性、より深い人間性、また、より大きな心の器を感じます。それは、世の中と自分自身を多面的に見ているからだと思います。


 郊外の森で栗拾いが楽しみなパリより応援します。

         

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