世にも不幸な転職
全ての転職が幸福につながるわけではない。ミスマッチがおこらないように手をつくしても、どうにもならないこともある。
http://japan.internet.com/column/career/20071019/1.html
Kさん(37歳)は大手通信事業A社から、従業員20名強・設立1年の情報通信サービスB社に転職をした。 B社は外資系X社と商社Y社から資本を得ており、ある程度バックグラウンドのある会社ではあったが、大企業に勤務するKさんにしてみれば、それこそ清水の舞台から飛び降りる気持ちだったに違いない。B社からの内定はすぐに出たが、それからKさんが転職を決意するまでには、KさんとB社、Kさんと我々、B社と我々、多くの言葉が交わされた。B社は「安心して、転職してきて欲しい」と繰り返し言っていたが、その言葉は裏切られる結果になった。
わずか四か月後、Kさんから「もう一度お世話になりたいのですが…」という申し出があった。何も知らなかった我々は無邪気に「何かありましたか?」とたずねたのだが、Kさんから出てきた話は頭を抱えたくなるようなものであった。
Kさんの入社直後、B社では商社Y社の資本引き上げが行われ、そこから人員の入れ替えが進んだ。外資系X社系列の関連会社から人が送り込まれて、既存社員の約半数が会社を去ることになったのだ。
そして、そのクビ切り役にKさんが当てられた。言うまでもなく、これは入社前に想定されていた仕事ではない。入社後いきなり人事整理を進めるKさんは、B社立ち上げに関わった社員達の憎悪の対象になってしまった。
そして、さらにKさんの立場を厳しくしたのは、B社が新しい提携先としてKさんの在籍していたA社を選んだことだった。Kさんは辞める際に慰留を押し切って転職に踏み切っていた。再び同じ系列になるのでは、転職した意味がない。いや、それより酷いだろう。B社を監督する立場のA社マネージャーは、Kさんの前歴をよく承知していた。
「まあ、こうなったのは不運と思って貰うしかないね」
Kさんはそう言われて再転職せざるを得ないことをさとったという。
全ての歯車はKさんが入社した直後から動き始めていた。B社トップがこうなることをまったく知らなかったかどうかは疑わしい。Kさんが「騙された」と感じ、転職に関わった我々を共犯と断じても仕方のない経緯だった。
知らぬこととはいえ、我々はKさんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「まさか、そんなことになっていたとは…なんと申し上げていいのか…」
それ以上、言うべき言葉も思いつかない我々に、Kさんは「そんな、謝らないで下さい」と穏やかな声で言った。
不謹慎なようだが、Kさんが嫌味のひとつでも言ってくれた方が、我々としては気が楽になる部分があったかもしれない。しかし、Kさんは「エージェントさんを責めるような気持ちは全くありません」と、その後も決して我々を非難しようとはしなかった。
再転職は簡単には進まなかった。我々は何度かKさんに不採用の連絡をしなくてはならなかったが、そのたびに申し訳ない気持ちがつのり、つい「力が足らずに申し訳ありません」といった一文をメールに書き加えていた。
するとある時、Kさんから電話がかかってきた。
「エージェントさんは驚かれるかもしれませんが、私は転職したことを後悔していないんですよ」
「しかし、今回のことでは酷いことばかりで…」
「それが、そんなこともないんです。実は、私、婚約をしまして…」
「それはおめでとうございます」
「相手の女性は、B社で私がクビを切ったひとりなんです。彼女は私の立場を察して、力になってくれて…。無職になった今も支えになってくれています」
「そうでしたか」
「こんな話をするのはアレですが、私はA社に在籍していた時、合コンに行ってみたり、お見合いパーティーに行ったり、結構いろいろやっていたんですね。それなのに相手が見つからず、こうなって結婚が決まるなんておかしいですけど、でも、今回の転職がなければ彼女にめぐり逢うことはなかったわけで…。
僕は今、幸せです。僕にとってあの転職は本当に失敗ではなかったのですよ」
「Kさんがああまで寛容でいられるのは、そういうことだったのか」
我々は納得し、Kさんの良縁を喜び、さらに告白するなら、少しばかり救われた気持ちになった。しかし、だからといって胸を張ることは出来ない。本来の仕事で縁結びをしなくては、Kさんの信頼に応えたとは言えないのだから。
彼と、彼を救い我々に再びチャンスを与えてくれたフィアンセのために、我々は全力を尽くしているところである。