ブレイクスルー
高きから低きへ水が流れていくように、不景気な業界から成長分野に人材が流れていくのはいつの時代も同じだ。そして、経済が生み出すうねりは不思議な『河の流れ』を作る。
http://japan.internet.com/column/career/20070919/1.html
メディカル業界では、たびたび MR(医薬情報担当)の大量採用が行われる。ひとつの技術開発が、爆発的な需要を生み出すからだ。極端な場合は、ひとつの医薬品の名前を冠した事業部ができることすらある。MR も業界内での転職はさかんに行われているが、短期間に大量の人員を必要とする場合、企業は異業界に目を向けざるを得ない。
数年前のこと、住宅販売営業Sさん(29歳)は我々のところに来たとき、自分が MR になるということは、まったく予想していなかった。
彼が望んでいたのは、夫人との共通の休日、つまり土日が休める仕事に就くこと、収入が下がらないこと(もちろん出来れば上げたい)、顧客から理不尽な要求を受けないことの三つであった。住宅販売を続ける限り土日出勤を避けられないSさんは、必然的に異業界への転職を模索、そして大量採用を行っているメディカル業界に注目したのだった。
彼が中堅外資の医薬品メーカーA社で内定になったのは、幸運といっても良かった。彼の前に慰留によって転職を取りやめた人がいたために、すぐにどこへでも転勤してくれるスタッフが必要だったA社は、Sさんを繰り上げ内定にしたのである。Sさんにとってはハッピーな結末だったが、A社にとってはハッピー以上の結果が待っていた。
入社後、専門知識の研修を行っている時まで、Sさんは他の転職者と何ら変わるところがなかった。それが現場に出たとたん、他の新人の倍以上の業績を出したのだ。
SさんがA社の仕事にはやく馴染めたのには、もちろん理由があった。住宅営業時代、顧客の数人が開業医師で、彼らの考え方や行動様式をよく知っていたためだ。
Sさんのめざましい活躍に驚いたA社は、全社に調査をかけた。すると、住宅販売から転職してきた者(若干名)は皆、平均以上の成績をあげる傾向があることがわかった。ヒアリングから「個人開業医への営業は、対富裕層営業という意味で、住宅販売と似たところがある」ということが分かり、A社は次の採用で我々に「住宅販売経験者は優先して採用することになるだろう」と告げてきたのだった。
正直なところ、MR にどこまで住宅販売経験者が合っているかは、我々にははかりかねるところがある。A社成功例もサンプル数が少ないし、驚くべき成績をだしたのはSさんだけであった。たしかに「対富裕層向け営業」という共通項はあるかもしれないが、どんな仕事も探していけば共通項のひとつやふたつ見つかるものである。
ただ、A社の決定がひとつの契機になって、他社でも同様の動きがうまれ、住宅販売から MR への転職者数は増加した。メディカル業界は比較的待遇が恵まれており、応募者も多い。決して応募すれば確実に決まるといったものではないが、それでも成功事例によって会社(業界)の側にも、転職者の側にも、可能性があるという空気が生まれたのである。
個人の視点では、異業種・異職種への転職は冒険であり、未知への扉だ。しかし、もしそこで成功をおさめれば、自分の後に道が出来ていることに気付くことがあるかもしれない。自分の転職が会社にとって、業界にとってのひとつのブレイクスルーだったと思えることがあれば、それは大きな自信になるに違いない。