中国人社員・職場への受入活用(5)先入観には要注意
成功するビジネスコミュニケーション(5)―小平達也
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0830&f=column_0830_004.shtml
「あの部長は団塊世代だから根性主義が強いはずだ」
「彼女はこの前までアメリカにいたのだから、自己主張が強いはずだ」
日本人同士でもよくある、「……だから、……なはずだ」という先入観。相手の年齢や性別、出身地や所属する企業などをもとに、一般論や個人の経験をベースにして組み立てられる発想です。当たっていることもあるとはいえ、あまりにも典型化されすぎた「過度の先入観・決め付け」は禁物であることは、皆さんも経験上よくご存知の点ではないでしょうか。
「あうんの呼吸ができる」「場の空気を読む」「先輩の背中を見て学ぶ」等々、一般に同質的といわれる日本人の間でさえ要注意であるこの先入観。職場の中国人社員にこの「過度の先入観」で対応してしまうとどのような問題が起きるのでしょうか。
■課長のやる気がアダに 中国人社員への先入観を持ちすぎた例
「今度うちの課に中国人社員が配属されてくることになりました。外国人社員との仕事は初めてですが、中国人社員は個人主義的でノウハウを同僚に教えたがらないと聞いています。彼らはすぐに転職するらしいので、今回、中国人社員を受け入れるにあたっては事前にとにかくマニュアル化を進めましたよ。あとは誰がやっても同じになるように、いつ辞められても困らないように準備をしました。これだけ準備しておけば本人も喜んで仕事をするでしょう」
これは初めて外国人社員と仕事をするA社・営業部門の課長氏のやる気に満ちたコメントです。その後、以前日本に留学し、卒業後は外資系企業で2年ほど働いていた呉さん(仮名)が、仕事の幅を広げたいということでA社に転職をしてきました。
呉さんが入社して半年ほど過ぎ、筆者はA社・課長氏と話しをする機会がありました。「事前準備は万端だったようですが、その後はいかがですか」と話を向けると課長氏、以前のような元気がありません。「当初は読みどおりでした。事前準備のおかげで呉さんはマニュアルどおりてきぱき仕事をこなしてくれて、立ち上がりも予想以上に早かったです。このまま行けばハイパフォーマーになるでしょう。でも、入社のころとくらべると最近、元気が無いみたいなんですよ。何が問題なのか……。一度、呉さんと話をして、問題点を見つけてもらえませんか」
■典型化されすぎたイメージに注意
私はさっそく呉さんと面談を行ないました。異文化適応においてはいくつかの段階があります。新しい環境に馴染むハネムーン期(2カ月目くらまで)、カルチャーショック期(2カ月から半年くらいまで)、適応期(半年から2年くらいまで)、成熟期(2年目以降)などです。。入社6カ月である呉さんは、カルチャーショック期にある可能性が高いので、この時期的なタイミングも踏まえとにかく話を聞いてみました。
呉さんの不満は以下のようなものでした。
「この会社、日本企業なのにすべてマニュアルとレポートで管理されているのに驚きです。そしてこのマニュアルから外れた行動は許されないのです。これでは私が前にいたアメリカ系企業とまったく同じで、仕事に自分なりの工夫をはさむ余地もありません。入社当時は研修のつもりでマニュアルに沿った仕事を進めてきましたが、仕事に慣れてきても、そしてこれからもずっとこのままかと思うと単なるオペレーターのような気持ちになります。
『日本企業では任される仕事内容がそれほど明確でないけれども、信頼されるといろいろな業務に関係でき、改善など提案しながら仕事の幅が広げられる』と、大学時代の先輩に聞いたことがあります。この日本企業の文化に魅力を感じ、期待して転職をしてきたのですが。面接のときにも人事の方にこの点を伝えましたが。これでは前職のアメリカ系企業のほうが明確な成果主義であっただけましですよ……」
どうやら、仕事を進める上で日本企業における「創造性発揮」を求めていた呉さんと、A社での仕事の進め方には大きなギャップがあるようです。
■成功するビジネスコミュニケーション 今回のポイント
今回の事例ではA社・課長氏が「中国人とはこのようなはずである(この場合、極端なマニュアル主義)」という先入観に縛られすぎていたことが招いた例といえるでしょう。せっかく職場受入に際し準備をするのであれば、一般論とあわせて、呉さん個人の転職動機などもきちんと本人や人事にヒアリングをした上で準備を進めたほうがよかったですね。
意外に思われるかもしれませんが、今回の事例以外にも5Sやカイゼンなど、中国をはじめ海外で根強い人気のある日本企業文化もあるのです。これら「外国人社員から見た、日本企業で働く魅力」はそれぞれ掘り下げて考えていくべき課題だと思います。また、先にも挙げましたが異文化適応には4つのフェーズ(ハネムーン期、カルチャーショック期、適応期、成熟期)があるといわれていますので、これら時間軸を見込んだ上での適切な対応も必要です。
いずれにせよ、中国人はこうだ、と典型化されすぎた先入観に縛られることは避けるべきでしょう。いい意味での誤解であればそれはそれでよいのですが、いったんマイナス面での誤解が進むとコミュニケーション量も一気に下がります。こうなると誤解がそのまま既成事実化し、結果として双方にとって不幸なことになりかねません。
我々日本人も、一般論で「日本人はこうだ」とくくられることがよくありますが、その一方でそれぞれ個性があり、企業で働くモチベーションやキャリア観も異なっているのですから、外国人社員に対しても一般論で知識武装する一方で、個別性や時間軸への気配りをすることが大切になってきます。(執筆者:小平達也・パソナテック 海外事業部 部長)
【執筆者】
小平達也(こだいら たつや)
パソナテック海外事業部 部長。パソナテックコンサルティング(大連)有限公司 董事。早稲田大学アジア太平洋研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」特別講師。商社にて中国を中心としたサプライチェーンマネジメントの構築、運営に従事。現職では日本企業における外国人社員の採用・受入・活用を支援している。外務省「『人の移動』に関するシンポジウム」で経済界の意見を発表のほか、最近では中国・インド・ベトナムにおける理工系人材比較というテーマでも講演。その他講演、執筆多数。
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