入社するのは1年後
Eさん(33歳)は、現職のシステム開発A社をこき下ろしていた。
「長年、A社に貢献してきたのに…」Eさんは怒気で鼻をふくらませた。「私のキャリアを邪魔しようとするんです」
職務経歴書に目を通すと、その言葉に反し今年に入ってEさんは昇進をしている。プロジェクトの内容も規模の大きいものに代わり、収入も増えていた。
「ワナにはまったんです」Eさんはそう言ってデスクの上の拳を握った。
http://japan.internet.com/column/career/20070710/1.html
Eさんが最初に転職を考えたのは約2年前。30歳という節目の歳になり、二次請け三次請け中心のA社より、もう一段上の工程で働こうと考えたのだ。プロジェクトに穴をあけないように上司に相談すると、その上の役員が出て来てEさんに言った。
「出来れば長く残って欲しいが、転職するなら仕方がない。ただ、次のプロジェクトでは君をリーダーに据えようと思っていたんだ。リーダー経験を経てから転職した方が有利なんじゃないか?」
悪くない話だと思ったEさんは、当面の転職は保留し、新プロジェクトの仕事にとりかかった。
だが、初めてリーダーになったEさんには二つの制限があった。実質的にはEさんがチームをまとめるものの、同期とのバランスを考慮して役職はなし。そして、いざというときのお目付役としてベテランプロマネがサポートに入ることになっていたのだ。
Eさんは仕事を順調にこなし、何も問題はなかったはずなのだが、ある時、お目付役のプロマネから話があると呼び出された。
「クライアントから不満の声が出ている」
「そ、そんなはずは…」
Eさんは食い下がったが、顧客の声には逆らえない。結局、開発の大枠が出来た段階で、Eさんはリーダーを譲ることになった。
自分の何がいけなかったのだろうと苦悶したEさんだが、続いて担当した小型のプロジェクトでも、まったく同じ事が起きた。開発のヤマ場を越えたところでリーダー交替の憂き目にあったのだ。
真剣に悩んだEさんは、上司に黙ってクライアントのところに行き、何が問題なのかを聞こうとした。だが、答えは「Eさんの仕事ぶりには満足していました」であった。
Eさんは、A社が自分を陥れたと、確信を持った。自信を失わせて転職を防ぎ、同時に安い給料でリーダーの仕事をさせる一石二鳥を狙っていると思ったのだ。
しかし、それでもまだEさんはA社を辞めることが出来なかった。EさんがA社でもっとも仲の良かった先輩が病気になり、その後任をすることになったからだ。
先輩と現メンバーへの義理から、仕事はきっちり終わらせたいというEさん。プロジェクトが終わるのは来年半ばだという。
「一年後の入社で構わないという会社はないでしょうか?」
「いやあ、そこまで先だと採用する側もためらいます。もう少ししてから転職活動した方がいいですよ」
「いえ、A社の経営どもに、見せつけてやりたいんです。昇進させたくらいで納得しない、他から引き合いがある。絶対に転職するってね」
入社が1年後では、普通、企業もなかなかクビをタテにはふらない。いくらなんでも、せっかちすぎると思われたのだが、勢いというのは恐ろしい。A社への怒りは面接での迫力へ見事に転化され、「二か月後ごとに状況の確認をする」(つまり、内定が取り消される可能性がある)という条件付きながら、Eさんは大手通信系ソフト開発会社から内定を取り付けたのだった。
それでも、Eさんは腹の虫がおさまっていないらしく、「あとは文句が言えないくらい仕事をキッチリ終わらせて、有給休暇も全部取って、堂々と1年後に辞めてやりますよ。まあ、みてて下さい」と、息巻いていた。
遠い入社日は破談の原因になりやすいのだが、1年後、果たしてEさんはどこまで今の怒りを持続しているのだろうか。