読売新聞社に慰謝料330万命じる高裁判決
読売新聞が不当に“販売店イジメ”を行い契約解除を迫っていた問題で、福岡高等裁判所(西理裁判長)は6月19日、原告の真村久三さんらの地位保全を認め、読売新聞社に対して、慰謝料としては高額な総額330万円の支払いを命じた。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20070622/12420
販売店主が高裁レベルで新聞社に勝ったのは異例中の異例だ。理不尽な新聞社側の手口に屈しないためのアドバイスや、裁判で果たしたインターネットの役割、新聞業界へ転職する際に注意すべきことなどについて、真村さんにインタビューした。
福岡販売店訴訟(真村裁判)の高裁判決は、真村さんの全面勝訴だった。この判例が今後、新聞業界に大きな影響を及ぼしそうだ。「押し紙」にメスが入る可能性もある
「必死で駆け抜けた6年間でした。高裁での判断は私たちの主張を十分に理解していただいた結果で、今は充実感でいっぱいです。新聞販売の現場でさまざまな問題が吹き出している最近の状況のもとで、高裁での判例ができた意味はとても大きいと思います」
6月19日、福岡高裁はメディアの巨人に厳しい審判を下した。YC広川の店主・真村久三さんの地位保全を認め、読売新聞社に対して慰謝料としては高額な220万円の支払いを命じた。また、YC宮の陣の松岡進さんには、110万円の慰謝料支払いを命じた。
事件の発端は、かつて闇社会とかかわりをもっていたある販売店主が、読売新聞社の支援をバックに、久留米市を中心とする筑後地区にあるYCの経営権を次々に奪い取ろうとしたことである。
真村さんが経営するYC広川にも白羽の矢が立った。ところが有能な経営者である真村さんを解任する正当な理由はなにもない。
「そこで読売は、あれこれとさまざまな理由をこじつけてきたのです。うその実配部数を報告していたとか、折り込みチラシの水増しをしていたとか、副業でパソコン教室を開いているとか、ありとあらゆる汚点を探そうとしました。しかし、結局、どの理由もこじつけで、解任するための正当性をなにひとつ立証することはできませんでした」
インターネットが果たした役割
——配達部数660部のYC広川が、1000万部のメディア企業に勝ったわけですから、その衝撃は大きいですね。
「大メディアが相手ですから力の差はありましたが、インターネットを利用して情報を発信することができたので、かなり対等に戦えました」
——インターネットの情報が裁判で役立った?
「はい、『押し紙』問題に象徴される、新聞社による優越的地位の乱用が、全国共通の問題であることをネットを通じて情報交換する中で知りました。また、新聞の商取引に関する有意義な情報を収集して、それを裁判所に提供することもできました。その結果、裁判所の態度が変わってきたようです。これも新しいメディア時代の特徴なんでしょうね」
新聞販売の諸問題は、新聞やテレビではめったに取り上げられない。そのため唯一の情報発信のツールは、雑誌とインターネットである。真村さんはそれを有効に活用した。重要な裁判資料をパソコンに入力して、支援者やメディア関係者に発信した。それに応える人々がいた。支援は全国に広がった。
「例えば昨年の地裁判決のときは、週刊新潮をはじめとして、オーマイニュースが写真入りで大きく私の勝訴を速報してくれました。新聞はほんの申しわけ程度に短い記事を掲載しただけでしたが。マイニュースジャパンも、私の裁判を精力的に取り上げてくれました。かつてのメディア環境では想像もできないことが起こったのです」
発注伝票の不在にはビックリ仰天
YC広川の経営を始める前、真村さんは筑後自動車学校で自動車教習の指導員として勤務していた。自動車の指導員から新聞販売店の店主へ転職したのである。
「自宅を新築したこともあって、以前から夫婦でなにか事業を始めたいと思っていたのですが、そんなとき、新聞販売店の経営者募集の話があることを聞いて、応募したのです。面接を受けたところ採用になり、仕事を覚えるために約1年の間、近くのYCに勤務しました」
——なぜ、転職先を新聞業界に決めたのですか。
「私のようにサラリーマンから自営業者を目指す人にとっては、なるべくリスクが少ない職種を選ぶのが原則なんです。例えばどこかの小さな飲食店を引き継いだとしても、将来が見えません。その点、新聞社というのは、安定性があり、社会的な信用度の高い企業のひとつですから、販売店の経営も安全だと考えたわけです。大半の人は、新聞社が問題の多い商取引をしているなどとは夢にも思わないでしょう」
「新聞業界に転職した最初の段階から、理不尽なことが次々と起こりましたね。まず、YC広川を開業するための準備資金は800万円準備すればいいと言われたのに、実際には1200万円もかかりました。引き継いだ配達部数は約1500部でしたが、購読契約のほとんどが1年以内に満期になるありさまで、それを維持するためにさらに1000万円ぐらいの経費を投入しなければなりませんでした」
開業前と開業後では約束が違っていたという話は多い。真村さんの身の回りにもそのような人はいる。
「現在、福岡地裁で『押し紙』裁判を提起しているYC小笹の元店主・塩川茂生さんも、店主になってみると、最初に取り決めた商取引の条件とはまったく違っていました。塩川さんは、約1000部あった『押し紙』を整理するという条件で、店主を引き受けたのですが、読売が約束を履行したのは、半年後でした。その間、塩川さんは約1000部の『押し紙』を負担させられました」
塩川さんは店主になる前は、読売系の新聞セールス団の幹部として働いていた。いわば内部の事情に通じている人だ。当然、「押し紙」についても知っていた。脱サラ組の人が「押し紙」付きの販売店経営を引き受けるはずがないので、読売は事情を理解している塩川さんに店主になるように説得したらしい。そこで塩川さんは、「押し紙」を中止することを条件に申し出を承諾した。ところがいざ店主になってみると、やはり約1000部の「押し紙」が付いてきたのだ。
販売店相互の協力がなによりも必要
6年にわたる裁判は読売新聞社が最高裁に控訴しない限り終結する。真村さんの裁判は終わっても、真村さんが受けた損害は取り返しがつかないほど大きい。YCの店主の集まりである読売会から除名されたり、営業に関する補助をすべて打ち切らるなどしたために、当初は約1600部あった配達部数が、660部まで激減した。いつ自主廃業に追い込まれても不思議ではない。
「読売は法廷で真実を明らかにすることよりも、YC広川をジリ貧に追い込み衰弱死させることにエネルギーを注いでいたように思います。販売店が倒産すると、裁判費用が断たれますからね。それが新聞社の裁判対策です。しかし、私たちのケースでは、弁護士さんたちが好意的でした。販売店の経営が苦しくなってくると、費用の点でも協力して動いてくださったんです」
新聞ばなれが進む中で、今後、販売店訴訟が増えていく公算が大きい。
「販売店の経営悪化の要因として、ひとつには時代背景があると思います。情報の多種多様化をむかえ、新聞自体が必要とされなくなってきているのです。残念ながら、そのことは認めざるを得ません。発行本社は、今後、統廃合というかたちで販売店主の解任を押し進めていくでしょう。そのとき、販売店の家族や従業員の生存権を守るために、販売店相互が手を取り合うことがなによりも大事だと思います」