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モチベーションの先にあるもの

今回のすきありは,井戸端会議での議論に引き続き,技術者のモチベーションを取り上げる。

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070605/133639/

 井戸端会議でも主張したが,モチベーションを高めるには,“志(こころざし)”が大切だと筆者は強く認識している。所詮,技術者もサラリーマンである限り,仕事は与えられたもの。与えられた仕事に対して,自らがモチベーションを高めなくてはならない。強い意志を持って,すなわち自分自身の“志”を持って望まないと,さまざまな局面に対してモチベーションを維持できない。

緊張感が切れるとき

 だが,どんなに高い志を持っても,所詮は人間。いつかは緊張感が途切れるときが来る。半年も集中し続けていれば,普通なら,そろそろ「朝起きられない」「体がだるい」など,ストレスに対して体がSOSを発しだす。こんな場合は,大いに発散して,リラックスする必要があるだろう。

 こんなときは,部下がストレスを溜めないように,上司も心配してこう言うだろう――「週末はゆっくり休んで,来週から一生懸命がんばれ」と。しかし,こんな経験はないだろうか。ゆっくり休んだ週明けの月曜日,いつものような集中力が戻らず,ちっとも仕事がはかどらなかったことが。これは,週末に解放した緊張感や集中力が,週明け後,すぐに元のレベルまで戻らなかったために起きたのである。要するに,リラックスし過ぎて,緊張の糸が切れてしまったのである。

 もちろん,思いっきりリラックスしていい場合もある。例えば,プロジェクトなど大きな仕事がひと区切りしたときなどだ。徹底的にリラックスして,そして時間を掛けて緊張感や集中力を取り戻せばよい。しかし,仕事に追われている最中の週末で,ストレスを発散するごとに,緊張の糸が切れていたのでは,仕事が一向に進まず,余計にストレスを抱えてしまうことになりかねない。

 筆者の経験から言えば,心身をリラックスさせた上で,休日の後でも緊張感を継続できるようにするためには,発散の内容,つまり余暇の過ごし方そのものを意識する必要がある。緊張感をある程度高いレベルで保ったまま,仕事のストレスをコントロールすることが大切になってくる。

極める中でリラックスする

 緊張感を上手に維持するためには,仕事と同等レベルまでスポーツや趣味に集中し,心地よい緊張感の中で楽しむことが必要になる。好きなことをやれば,ビジネスのストレスからは解放される。その中で緊張感を高く維持するためには,好きなことにも高い目標設定が必要になる。例えば,公式競技会に参加する,審判員やインストラクターを目指すなど,適度なプレッシャーの中で,好きなことを極めるまでチャレンジするのだ。

 要するに,重要なのは,プライベートや余暇の時間でも気持ちの張りを落とさないことであり,そのためには,平素から仕事に対する心構えを培っておく必要がある。

 絶対とは言わないが,余暇の過ごし方を見れば,どんな緊張感の中で仕事をしているのかがおおよそ予想できるものだ。毎晩,飲み屋で呑み疲れているのなら,所詮その程度の集中力しか発揮できないのと同じ話である。高い志を持って,緊張感の中で良い仕事をしようとすれば,自ずと余暇への心構えも変わり,過ごし方も違ってくる筈だ。そして,余暇の中で成功体験やチャレンジ精神を養い,また,余暇から仕事へのヒントをつかむのである。

モチベーションはプレッシャーに勝つためにある

 『日経ものづくり』5月号の特集「士気を高める」を読んで気になったのが,技術者として自分が研究した結果は見たいが,プレッシャーからは逃れたい,という意見である。

【『日経ものづくり』5月号73ページに掲載されたある技術者のコメント】(クリックすると別ウインドウが開きます)

 自分もそうだが,人間であれば自分の心のどこかにプレッシャーから逃げたいという気持ちがある。しかし,任された仕事をまっとうするためには,このプレッシャーからは逃れられない。人から信頼され,仕事を成功に導きたいと考える以上,このプレッシャーから逃げてはいけないと,いつも自分に言い聞かせている。

 とは言っても,プレッシャーに打ち勝つのは至難の業である。少しでも躊躇すると,逃げようとする気持ちに負けそうになる。だからこそ,自らの強い志,自身でモチベーションを高める必要があるのだ。

 モチベーションとは,気持ちよく仕事をするために人から与えられるものではない。他人から与えられたモチベーションでは,最後の最後で,モチベーションを与えた上司や組織を言い訳にして逃げしまうのがオチであり,直面するプレッシャーには打ち勝てない。

 結局,モチベーションとは,自らが仕事に打ち込み,その責務をまっとうするために,自分自身で生み出すものではないのだろうか。たとえ,最初は与えられたモチベーションであっても,最後は昇華して自分自身のモチベーションにしなくてはならないのである。

プレッシャーに打ち勝つための「志」と「胆力」

 ここまでの話をまとめると,以下のようになる。仕事を成し遂げるためには,自ら行動し,立ちはだかるプレッシャーに耐える必要がある。そして,そのためには,モチベーションを維持し続けなければならない。とは言っても,技術者も所詮,人間,集中力に限界があるのも事実。そこで,緊張感を適度に維持しながら,ストレスを開放する余暇の過ごし方が大切になってくる。要するに,日々の過ごし方,つまり,平素からの心構えが重要なのである。この心構えを培うため必要なのが,自らの強い志なのである。

 実は,緊張感や集中力をコントロールすることと,モチベーションを持ち続けることは一致しない。なぜならば,緊張感や集中力のコントロールは,日々の精神状態を安定に維持するのが目的であるが,モチベーションとは,将来に向かって進む原動力(動機付け)である。苦しく,辛くても,自分の進む道から逸れないように,先を見続けるものであり,近視眼的ではモチベーションが揺れてしまいかねない。

 モチベーションを言いかえれば,自らの意思で,自分の目標「志」を持ち,困難にも負けない精神力「胆力」を持つことに他ならない。モチベーションの低下で悩んでいる若い人に是非考えてもらいたい。本当に自らが志を持って仕事に望んでいるのか。その上でのモチベーションの低下なのだろうか。「仕事が面白くない」,「やる気がでない」,「将来の進む道が判らない」など,いろいろな理由から,モチベーションが上がらないと感じていると思うが,その理由はどこにあるのだろう。腹を据えて行動した結果からなのだろうか。そうではないのなら,理由はモチベーションとは別のところにある。

仕事への姿勢と成長曲線

 何やら精神論的な話になってしまったが,もう一点だけ,若いサラリーマンの方々にアドバイスさせて頂く。

 サラリーマンとしての将来は,「20歳代の仕事で決まる」のが,ほとんどの場合である。多くの会社では,会社が人材育成として重要視するのは,個々の成長曲線だからである。おおよそ最初の数年の働きぶりを見た上で,潜在能力が大きいと感じれば高い成長を期待した育成プログラムを実施する。一方で,潜在能力に望みが薄いと感じれば,会社は高い成長曲線を描かない。

 では,どうやって会社は“あなたの可能性”を判断するのか。知識や能力は当然として,それに加えて,あなたがアピールするモチベーション,つまり仕事への姿勢も判断基準である。将来の会社や組織を担ってもらうためには,会社を思う「志」と,最後まで遂行する「胆力」を持ち合わせた人材こそ,育成する価値があると判断するからである。

 転職の世界で,30歳代後半が転職の最後のチャンスと言われる理由の一つには,成長曲線を描く最後のチャンスが,30歳代までだからである。逆を言えば,40歳以降の中途入社に成長曲線を描く意味はない。彼らには大きな成果を求めるのみである。

 だからこそ,最低でも入社3年間は,会社に対して秘めた可能性を最大限にアピールしてほしい。「会社がモチベーションを与えてくれない」などと嘆いている場合ではない。今ががむしゃらに働く時なのである。

不釣り合いのモチベーション

 前述の特集「士気を高める」での座談会において,ある技術者が「再チャレンジできるような仕掛けが少ない」と自社の環境を嘆いていた。もし読者が,成長曲線に乗っている人材ならば,多少の失敗など恐れることはない。あなたは「失敗も成功の肥やし」として許容されている人材なのだ。またさらに,会社は自らの人選ミスはまず認めることはしないので,たとえ失敗であっても,それは失敗でなくなるのである。

 ただし,注意しなければならないのは,いくら「失敗は成功の肥やし」といえども,上司や組織の支援があってこその「再チャレンジ」である。いくら自らが高いモチベーションを持っていたとしても,そのモチベーションを生かすも殺すも,活動の場を与える上司であり,また会社であることも忘れてはならない。逆を言えば,上司の理解以上,組織の力量以上のモチベーションは会社には必要としない。強靭なモチベーションは単に組織の調和を乱すだけである。

 そして,モチベーションを維持することと,そのモチベーションを発揮できる場が与えられることは,往々にして一致しない。もし会社が,あなたの強靭なモチベーションに応えることができないのなら,そのときは,自分が光り輝く職場を新たに探すことを切にお勧めする。

 あなたが培ってきた知識や多くの経験,そして,仕事への姿勢に相応しい働く場所がある筈である。転職するのにためらう必要はない。もし躊躇するのであれば,その原因は,実は自分の“志”の弱さにあるのではないのか。

         

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