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年金支給漏れ 救済は「本人任せ」

社会保険庁改革関連法案をめぐる国会審議で、公的年金のずさんな給付業務が大きな問題になっている。受け取る年金額が本来より少なくなる「支給漏れ」が多数生じているほか、社保庁が保険料納付記録の一部を紛失した例などが発覚した。だが、社保庁は実態解明や被害者救済に消極的だ。(政治部 湯本浩司、社会保障部 石崎浩)

社保庁…実態解明、後ろ向き

泣き寝入り

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kaigo_news/20070523ik08.htm

 「払ったはずの国民年金保険料11年分が、未納だと言われた。社会保険庁は『領収書を持ってこい』の一点張りだ」

 22日の衆院厚生労働委員会。参考人として出席した谷沢忠彦弁護士(民主推薦)は自らの体験を例に、社保庁を強く批判した。

 公的年金は受給開始時点で、本人が申請した加入歴に基づいて金額の裁定が行われる。その際に社会保険事務所の窓口などで、社保庁が保管している記録と申請を照合することになっている。だが、本人が職歴の一部を忘れているなどの例が目立ち、特に転職を繰り返した人などの場合、本来は合算すべき記録の一部を社保庁が見落とすことが多い。

 さらに、社保庁が記録を紛失する例もあり、その場合は受給者本人が領収書などの証拠書類を保存していない限り本来の年金額を受け取れない。

 これまで約350人から年金に関する相談を受けたという谷沢弁護士は、「年金の記録が抜け落ちて、泣き寝入りしている人がたくさんいる。30年以上も前に払った保険料の領収書を持って来いというのは、あまりにも酷だ」と訴えた。

 いったん年金の受給が始まった人が、後で気づくなどして社保庁に年金額を訂正させた件数は、過去6年間で約22万人。訂正を受ければ過去5年間の不足分は一時金で支払われるが、それより前の分は時効となる。

氷山の一角

 国会審議では、すでに年金額を訂正させた「22万人」が、支給漏れ全体の“氷山の一角”に過ぎないことも浮き彫りになった。

 年金の記録は1997年から、加入者ごとに基礎年金番号で管理され、転職しても支給漏れが起きない仕組みになった。だが、それまでは転職のたびに別の年金番号が付けられた例などが多い。

 基礎年金番号に名寄せされていない記録は、2006年6月時点で約5095万件もある。この5095万件の大部分には、「氏名、性別、生年月日」が記載されているものの、社保庁は「基礎年金番号とは結び付かない」としている。

 柳沢厚生労働相は18日の衆院厚労委で、この件数から現役世代などを除き、支給開始年齢(厚生年金60歳、国民年金65歳)に達している人(80歳未満)の記録が1867万件もあることを明らかにした。

 記録は基礎年金番号に名寄せされない限り年金額に結びつかない。1人の受給者がいくつもの記録の対象となっている可能性があることなどから、記録の件数より実際の支給漏れの人数は相当少ないと見られる。支給漏れに気づかず、本来より少ない年金を受給し続けている人が多数にのぼる可能性が強まっている。

 年金相談を専門とする社会保険労務士からは、「支給漏れとなる年金は1人当たり年数万円~20万円程度のことが多い」という指摘もあるが、社保庁は国会審議で、支給漏れの総額や1人当たり平均額も明らかにしなかった。

消極姿勢

 「受給者本人に注意を呼びかける」。柳沢厚労相は18日の答弁で、6月に約3000万人の全受給者あてに発送する今年度の年金額通知書に、支給漏れの警告文を掲載する考えを改めて示した。

 だが、社保庁は記録の名寄せ作業について、「一方的に行えば、同姓同名の別人に年金を支給するなどの事態が起きかねない」として消極的だ。

 柳沢厚労相は、民主党が求めた〈1〉基礎年金番号のない記録を再調査し、すでに受給している人に名寄せする〈2〉受給者全員に過去の加入歴の一覧表を郵送し、再確認してもらう――などの対応を拒否。「(加入歴に疑問を持って)窓口に来た人に、ていねいに対応する」と述べるにとどまった。

該当の可能性は?

何回も転職 / 名前の登録ミス…


 支給漏れが起こる可能性が高い人はどんな人だろうか?

 まず、過去に転職を繰り返した人は要注意だ。戦時中、軍需工場で働いていた人や短期間、会社勤めをしていた女性も、厚生年金に加入していた事実を忘れてしまう例などが多い。

 こうした典型的なケース以外で、加入者に非がなくても、支給漏れは十分に起こりうる。

 たとえば、社保庁に名前の読み方が間違って登録されている場合だ。

 国会審議の中で、氏名間違いの実例として、高田(たかた)を「タカダ」、古谷(ふるたに)を「フルヤ」と登録していたり、秀一(しゅういち)が「ヒデカズ」、成子(せいこ)が「シゲコ」となった例などが確認されている。記録の多くは氏名が漢字ではなくカタカナで入力されているため、「他人の納付記録」と見なされるおそれがある。

 誤った氏名は、手書きの記録をコンピューター化した際の打ち間違いや、会社の社保庁に提出した書類のミスなどが考えられるが、氏名のミスがどの程度あるのかわかっていない。

 また、納付記録は、一般的に〈1〉氏名〈2〉生年月日〈3〉性別――という「3情報」で、名寄せされているが、約5000万件の宙に浮いた納付記録のうち、約30万件は生年月日が不明であることも、国会審議で判明した。同姓同名の加入者は少なくないことから、生年月日不明の記録は名寄せが困難になる。

 このほか、社保庁が納付記録を紛失したケースも55件確認された。これは加入者が領収書などの証拠を持っていたため、紛失が判明したものだ。

 社保庁の調査では、全国1835市区町村のうち284自治体(約15%)は、国民年金加入者の名簿を「廃棄した」と回答した。廃棄された分は、社保庁のコンピューターに記録されている納付記録が正確かどうか、確認ができなくなったことになる。

 政府・与党は、国会で審議中の社会保険庁改革関連法案で、社保庁を廃止し、新たに非公務員型の「日本年金機構」を創設する方針だ。新組織は2010年1月にも誕生するが、組織が変わっても納付記録の問題は解決せず、一層うやむやになる可能性もぬぐえない。

 社保庁改革関連法案 社保庁を廃止・解体し、年金業務を非公務員型の公法人に移すための法案。相次ぐ不祥事を受けて政府が提出した。近く衆院を通過して参院に送られる見通しで、今国会で成立する可能性が高い。

(2007年5月23日 読売新聞)

YOL内関連情報

【ニュース】 年金支給漏れ、過去6年で22万人…社保庁記録見逃す (2007年3月30日)

【ニュース】 年金支給漏れ 22万人「氷山の一角」 (2007年4月2日)

【ニュース】 社保庁86人分の年金納付記録を紛失、領収書で発覚 (2007年4月4日)

【ニュース】 該当者不明の年金納付記録 「既に受給年齢」1900万件 (2007年5月17日)

【ニュース】 年金支給漏れ救済 時効適用せず全額補償 (2007年5月23日)

         

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