SEシンドローム:抑うつ状態に陥った北京帰りのSE
2007/03/01(木) 10:31:44更新
連載【メンタルリスクと中国】 在中SE編(2)―佐野秀典(MD.ネット代表取締役社長)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0301&f=column_0301_004.shtml
システムエンジニア(SE)に特徴的にみられるメンタル症状を私が勝手にSEシンドロームと呼んでいることは、前回述べた通りだ。そのSEシンドロームの典型例として、今回は、私たちに寄せられたTさんの相談内容をご紹介することにしたい。
◆体が重い、ダルイ、動かない
寝つきが悪くなったのは入社してすぐからだったんですが、1年くらい前から、ぜんぜん眠れなくなっちゃって。今ですか?SEとして入社して7年目で、中国では3年過ごしました。
仕事はフツーにやれていましたよ。毎日忙しいのは当たり前。どの仕事だってそうですよね?納期に間に合わなくて休日出勤することはよくありましたけど、週に2日はもらってましたし、疲れてるなんて言えないっすよ。
まあ、帰りは0時を過ぎることもよくあって、正直、体力的にキツイなーって思うことはよくありましたね。この仕事、年とったらできないなーって。中国語はほとんどできませんでした。ただ、言葉ができなくて困ることはほとんどありませんでしたね。ホテルをマンション代わりに住まわせてもらってましたが、従業員は日本語ペラペラなんです。買い物に行っても、だいたい分かりますしね。ただ、言葉ができないと、中国人スタッフに指導したり、ビシバシ管理できないからなあ。彼らは納期を守らなくて、ストレスたまりまくりでしたよ。
相談?だって本社に相談したところで、何がどうなるってものでもないでしょ。愚痴いっても、日にちが経つだけですからね。システムは、納期遅れ即コストアップですから、大変っすよ。1日中ずーっとパソコンとにらめっこ。
そういうことが重なっているうちに、中国に行って2年経った頃から、急に眠れなくなっちゃったんですよ。病院に行く時間もないし、初めは日本に帰った時に薬局で睡眠薬みたいなものを買ってきて飲んでたんですけど、クスリのせいか昼間ボンヤリするようになっちゃいましてね。
そうこうしているうちに、半年くらい経ちましてね、なんかいつも体が重くて、朝、会社に行くのがイヤだなと思う日が増えたんです。日本の本社での健康診断を受けたんですけど、異常なし。有給もたくさん残っていることだから、まとめて休んだらどうかと産業医から言われましたが、分かってないよね。そんなことできるくらいなら、とっくに休んでますよ。できないからこうなってるの。とにかくガマンしてしばらく続けてたら、ある日、もうダメ!って感じになっちゃったんです。ちょうど、中国滞在してからちょうど3年経った頃でしたね。
ぜんぜん起きられない。目は覚めてるんですけど、芯からダルイっていうか、動けなくなっちゃったんですよ。何にもする気にならない。歯も磨けない。ボンヤリして、どうしたらいいかも思いつかない。その日はお昼過ぎに電話したら、総経理に無断欠勤!と叱られましてね。それで状況を説明したら、じゃ、すぐに、いったん日本に帰ってこいといわれましてね。
◆帰国後の診断は「抑うつ状態」
日本に戻ってから、会社が契約している病院に連れて行ってもらったら、何の異常もなくて。でも先生に診断書を書いてもらって2週間休むことにしたんです。ただ、診断名は「抑うつ状態」。そうか、こういうのを「うつ」っていうのかって、思いましたね。話にはよく聞くけど、自分がこうなるとは思ってなかったし。
「うつ」なら、しばらく休んでクスリを飲めば良くなるって聞いてたから、そんなに心配にはならなかったですね。今考えれば、ひどくボンヤリして、ほとんど何もまともに考えてなかったっていうのがホントのところだと思うんですけど。
睡眠薬と抗うつ薬を処方してもらって、日本のマンションで何にもしないで過ごしてたんですけど、10日目くらいから少し元気が出てきて、ちょっと良くなったんです。それで2週間後、本社に出社しました。みんなからは、顔色が良くない、どうした、と心配されたけど、もう大丈夫だよなんて言って。それじゃあ、また来週から北京に戻るかって話になったんです。
でも、その翌日からまたダメになっちゃったんですよ。また起きられなくなって。自信なくなっちゃいましたね。でも頑張らなきゃって思って、起きようとするんですけどやはりダメ。結局、しばらく日本で仕事をするという話になったんですが、それでも行けない日ばっかりで、これじゃ仕事にならないし、迷惑かけるから、長期休暇を取ることにしたんです。っていうより、人事部から、とにかく体調がよくなるまで出てこなくていいからって言われたんです。
もうその頃には5キロくらい痩せて、なんかホント病人って感じになっちゃってましたね。1人暮らしもめんどくさくなって、仕方なく実家に帰ることにしたんです。
北京から戻って、もうかれこれ4カ月になりますね。途中で放り出したみたいになったプロジェクトは日々気になるし。とはいえ、会社には悪いけど1年間休職できるって総務から聞いて、ゆっくり治そうって思うようになったんですよ。今は回復度80%くらいかな。ただ、会社に戻る自信がなくて、今は転職しようかななんて考えたりもしますね。でも、SEはツブシが利かないし、やっぱりこの世界しかないな、とも思って悩んでいるところです。
■関連セミナー
『海外駐在員のためのメンタルヘルスセミナー』(主催:財団法人 海外職業訓練協会、日時:3月9日(金)15:00―17:00、場所:海外職業訓練協会東京事務所、お問合せ:03-5512-8601まで)
■関連インタビュー
・佐野秀典:メンタルヘルスケアで強い組織を作れ(2006/11/13)
【執筆者】
佐野秀典(さの ひでのり)
医学博士(M.D.、Ph,D.)。メンタルヘルス専門のサポートを行う精神科のドクターチーム(株)MD.ネット代表取締役。厚生労働省労働局顧問、静岡県警察嘱託医、財団法人海外職業訓練協会の国際アドバイザーを務めるほか、高齢者総合相談センター専門相談員、青少年薬物乱用防止支援チームスタッフ、介護保険対策委員の任にあたる。海外在留邦人に対するメンタルケアの第一人者であると同時に、アルコール、薬物、青少年問題に関する数少ない専門家の一人でもある。