3年で辞めさせない リセット転職を防ぐ上司と会社
http://www.asahi.com/job/special/TKY200703060150.html
3年で辞めさせない リセット転職を防ぐ上司と会社
(AERA:2007年03月05日号)
「石の上にも3年」は、とっくに死語。
入社3年以内に35%が退職する若年退職時代だ。
「辛抱足りん」と嘆くのは簡単。では、どうやって引き留めます?
(AERA編集部 伊東武彦、伊藤隆太郎)
「うちの会社も、やっぱり……」
東京の大手マーケティング会社インテージの人事部リーダー小牧雅さん(44)が、新卒で入社した社員の離職率のデータをパソコンに打ち込んだのは昨年5月のことだ。前年度の社員の意識調査で「将来が不安」「キャリアパスが見えない」といった若手の回答が目につき、計算してみると、20代前半の離職は少しずつ増えていた。
2005年11月、西東京市にあった社屋を都心に移した。職場で自由に席を選べる「フリーアドレス」制を導入すると、コミュニケーション能力にばらつきが見られるようになった。マネジャーはいわゆるプレーイングマネジャーで、拡大する業務に忙殺されている。01年に成果主義を導入した段階で、階層別の研修も休止していた。
◆三たび第2新卒ブーム
3年前の03年に入社した26人のうち、今年度中に5人が辞める。世間のデータに比べれば比率は低いが、40歳の部長からは「マネジメントのプロが足りないのではないか」と指摘された。
「中途入社が増えたこともありますが、転職ブームの影響も出てきたのかなあ、と。もともと採用段階で志望者の志向性が強く、人間関係もいい。転職の文化がない会社なのですが……」
リクルートワークスによると、07年春の大学新卒者向け求人数は、バブル期に迫る82.5万人。就職希望者1人に対する有効求人倍率も昨年の1.6倍から1.89倍にアップしたが、企業のターゲットは、いまや新卒だけではない。活況に沸く売り手市場で、25歳までに一度社会人を経験した第2新卒がますます勢いづいている。
第2新卒ブームは、バブル期とITバブル期に続いて3回目。03年から本格化した。第2新卒という場合、従来は27歳くらいまでだったが、新卒の取り逃がしでできた空席を「準新卒」で埋めたいという企業の思惑が、年齢枠を押し下げている。3年持たずにリセットボタンを押したい若者が、その大波に乗るという構図だ。首都圏に約19万人いるホワイトカラーの転職希望者のうち、約2万5000人が第2新卒だという。
昨年9月に光文社から出た新書『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(城繁幸著)は、年功序列のピラミッドの中で、若手社員が抱える閉塞感の要因を探った。帯には「仕事がつまらない。先が見えない」。5カ月で37万部が売れた。
新入社員に早々に辞められては、企業にとって大きな損失になる。試算では大卒新入社員が3年で退職した場合の損失は1600万円にも膨らむ。そればかりか、辞めさせるほど人材会社がもうかる市場構造ができているという指摘もある。「リセット退職」を防ぐ手だてとは何なのか。
◆「書生堂」の伝統生かし
「常に初心を忘れないようにしてください」
資生堂の前田新造社長(60)は昨年10月、入社から半年たった社員向けフォロー研修に初めて足を運んだ。折しも社長の肝いりで「共育」宣言を出したばかり。新入社員が座るテーブルを自ら回り、予定の時間が過ぎても、1年生の質問に熱心に答えた。
創業以来、会社は勉強の場を提供し、社員も熱心に勉強するという風土があり、書生との語呂合わせで「書生堂」とも呼ばれた。その伝統を生かして共育宣言に込めたテーマは「固有名詞をしっかりとみよう」。採用から入社3年目まで目配りの利いた育成をしようという方針だ。具体的には研修の充実とOJTの見直しだ。
もともと企業イメージが高いところへ、「TSUBAKI」などのメガブランド戦略を打ち出した。しかし、文系社員は地道な営業からスタートする。そのイメージギャップを埋めたいという思惑は、人気企業だからこそ強い。毎年150人から200人の社員を採用。3年目までの離職率は2%以下だ。人事部グループリーダーの深澤晶久さん(49)が言う。
「ここ数年間の退職者は数人ですが、1人でも辞めれば僕にとっては失策。ゼロでなければ、成功とはいえません」
3年目の社員87人中、退職者は1人、という名古屋市のブラザー工業にそのワケを聞くと、人事部の川口隆さん(41)は、こう言った。
「自由裁量で、好き勝手やらせてもらえますから」
企業風土のことだ。社員のほとんどが技術職。研修が終わって配属されると早速、開発に入る。部署によっては、いきなり海外出張というケースもある。
ミシンに始まり、タイプライター、通信カラオケなど、他社に先駆けて開発にチャレンジしてきた。その分、失敗も多かったが、ワープロのプリンターの熱転写技術をラベルプリンターに生かすなど、リターンマッチで勝つケースも多い。その集約が世界にブラザーの名を広めたオフィス複合機だ。
◆惨敗でもかぶる上司
川口さん自身も新入社員だった80年代後半にカラープリンター開発にかかわり、惨敗。世がバブルを謳歌する中で、2期連続の赤字を出す要因になった。しかし、そこで学んだ色の知見を、10年後のインクジェット複合機に生かした。
「研究段階でストップがかかることはまずないですね。若い時の失敗は、上司がかぶってくれる風土があります。10月の内定式で各部門が勧誘のプレゼンテーションをし、それを受けて年内に全員に希望分野を聞くことで、入社後のミスマッチも防いでいます」
ミスマッチは、現在の転職ブームを読み解くキーワードだ。
リクルートエージェントが25歳までの転職経験者を対象に調査した結果、「前職で不満だった点は何ですか?」の問いに「自分がやりたいことができなかった」と答えた人が17%、「上司・トップとの人間関係がフィットしていなかった」「組織全般の雰囲気とフィットしていなかった」が、それぞれ9.3%いた。
10年ほど前までなら、ミスマッチなど我慢するのが当たり前。いまは仕事にいいイメージを持つ学生ほど「自分がやりたいのはこんな仕事ではない」と見切りをつける。なぜか。終身雇用の幻想が崩れ、我慢しても得はない、と割り切るからだ。『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は、そんな若者の特性を指摘している。
第2新卒男女と毎日面接するキャリアアドバイザー金子正法さん(30)の実感は、こうだ。
「ほめられた体験が少ないので自信がない。それでキャリアをチャラにしたいと思っている人が多いですね。今の職場で自己実現できるのでは? 社内の行動半径を広げてみては? とアドバイスすると、上司と話してみます、社内で動いてみます、となる。実際に相談に来る人の3分の1は、辞めないで残っているんです」
フリーのキャリアコンサルタントの高野秀敏さん(30)も言う。
「昔であればやりがいなどと口にしたら、そんなこと言ってるんじゃないよ、ボケ、と言われたもの。今の若手は自分が会社に必要とされているのかを問題にして、アイデンティティーの崩壊を起こしている場合も多い」
◆初心に返らせ3回阻止
転職サイト「@type」を運営するキャリアデザインセンター(CDC)のキャリア情報事業部部長、倉持眞平さん(29)は、帰宅する時に部内の机の間を「蛇行」する。できるだけ多くの部下に一声かけて帰るためだ。
先日、入社半年の女性が「辞めたい」と言い出した。顧客から受注した求人広告の応募効果が出ない、と自信を失っていた。目標を設定するための面接時に「何のために働いているの?」と聞いていた情報を持ち出して、「あの時こう言っていたよね」と確認した。すると、相手は自分の目標にまたフォーカスできる。これで退職を止めたことが、3回ある。
「営業は、目標を達成した人は自然に称賛されるけど、そうでない人は放置されてしまう。そのスポットライトが当たらない人のこともちゃんと見ているよ、というサインを常に送ってあげることが大事だと思うんです」
CDCでは、採用時の相互理解を徹底的に強化することでミスマッチをなくそうとしている。7~8回の面接で、1人の学生に対して社長から1年先輩の内定者まで15人以上が会う。中でも最も時間をかけて会うのが「ナビゲーター」だ。約350人に絞られた選考の途中から、学生の相談相手、情報提供源になる。社員200人の会社だから、社員はほぼ総出で、学生に付き添う。
目的は、会社の実情を知ってもらうこと。仕事の内容、労働時間の実態、辞めたいと思った体験も明かす。選考に直接関係はないので、学生も胸襟を開く。人事総務部の海保克也さん(37)によれば、この取り組みには若手、中堅社員自身の離職率低下の狙いもある。
「学生と話すことで、自分はなぜこの会社を選んだのか、入社後にこんな体験をして現在に至ったというストーリーを振り返ることができるからです」
3年前までは入社後3年間で約40%が退職していたが、3年前から入社した約50人のうち、辞めたのは4人と離職率は低下している。
◆意識高める3年目研修
総合リースから金融、証券、不動産などに経営多角化を進めてきたオリックスは4年前、研修プログラムを大幅に見直した。各部門が高度に専門的になり、新人は会社の仕事全体の基礎を学ぶ機会が減ったためだ。基礎を徹底し、社内人脈を形づくり、会社全体を見せることに主眼を置いて各部門で実務を体験するプログラムを盛り込んだ。05年度入社からは、離職率は約2%にまで低下した。
2年前からは、スキルよりマインドに重点を置いた入社3年目研修を始めた。
「3年目社員に意識調査したところ、自分を振り返る機会が欲しい、モチベーションをもっと高めたいという声が多かったからです。自分ができる範囲や仕事の枠を取り払って、将来どうありたいか、どう生きたいかを立ち止まって考えてもらっています」(人材開発グループ・福島彩子さん)
ただ、現場の上司は難しい環境に置かれている。ランチを一緒にとるなど、若手社員とコミュニケーションを図っている東京営業本部マネージャー二ノ宮竜太郎さん(40)は、こう感じている。
「10年ほど前までは、もっと気軽に上の世代に相談できる空気があった。今は、ものすごい速さで業務が高度で複雑になっている。相談役となる中間層に余裕がなくなっているのかもしれません
◆「プチプロX」の勧め
就職氷河期の影響で、各企業とも現在の20代後半から30代に組織のギャップができた。先輩社員が手取り足取り経験を伝授するOJTの仕組み自体が崩壊しているという見方もある。
『「3年目社員」が辞める会社辞めない会社』の著者で、企業研修に取り組むシェイクの森田英一社長(34)は、「放っておいても人材が育つ時代ではない」と言う。
「目標(Goal)に向けて、計画(Plan)を立てて行動(Do)し、途中で必ずチェック(Check)して改善策(Action)をとる。このサイクルを回せる社員をつくる会社ならば、新人は3年で辞めない」
この頭文字をとった「G・PDCAサイクル」をつくるために重視するのは、実践的なロールプレイングだ。たとえば「顧客から資料作りを指示されたが、データを持っているAさんに聞こうと前日までやらないでいたら、Aさんが急に海外出張して連絡がつかない。どうするか」。
研修を見てみた。なるほど、参加者が示す対処法から問題が浮かび上がる。自分の欠点がわかるのだ。普段の仕事を漫然としていないか。計画を立てて行動する習慣が身についているか。自分の行動をチェックして途中で改善することができるか……。
「上司が成長プロデューサーとなって、新人が自分で仕事ができる人間に成長できるように、彼らに必要な行動特性を身につけさせなければなりません」
経営コンサルタントの中島孝志さん(49)は、上司は役者であれ、医者であれ、易者であれ、芸者であれ、学者であれ、という持論を持つ。その上で「プチプロジェクトX」のプロデューサーになるべきだという。
「職場では、いつでも目的に向けて小さなドラマが起きている。どんな悪役でもアップショットを作った映画監督の深作欣二さんのように、自分は黒衣に徹して、できるだけ多くの役にスポットライトを当ててあげられる上司が必要なのではないですか」
◆3年で辞められるといくら損? 従業員1000人以上のメーカーを例に取ると…
約1600万円の損失!
<1年目>
採用にかかる費用 100万円
(HP制作・管理費用、人材会社登録・紹介費用など)
本人の給与 350万円
(福利厚生費用含む)
研修費用 50万円
OJTロス分 120万円
<2年目>
本人の給与 380万円
OJT担当の上司・先輩のロス分 60万円
(年収600万円の社員が指導に割く時間・労力の損失)
<3年目>
本人の給与 400万円
退職補充のための費用 140万円
(中途採用として)
*
シミュレーション:高野秀敏・株式会社キープレイヤーズ代表取締役(キャリアコンサルタント、オールアバウトガイド)
◆U25の不満 前職に対してどの程度満足していましたか?
大変満足 9.3%
やや満足 15.7%
やや不満 41.3%
大いに不満 33.7%
*全体の回答
大変満足 10.0%
やや満足 19.9%
やや不満 41.1%
大いに不満 29.0%
◆要注意!こんな辞めシグナル
配属希望など、研修中から人事に相談やクレームを言いにくる
会社に遅れてくる
会議、社内・部内の行事に積極的でない
体の不調をよく訴える
ルールや社会人の基本的マナーを守れない
就業時間終了前にそそくさと帰り支度をする
普段は簡単にこなせる仕事に時間がかかる
上司の話を聞く時に身が入らず、やらされている感が漂う
*
キャリアドメイン谷所健一郎さんと、ロブ前田一寿さんの分析をもとに作成