遅刻しそうなので、面接受けるのやめます
http://jibun.atmarkit.co.jp/lcareer01/rensai/tenhon06/tenhon01.htm
第6回 遅刻しそうなので、面接受けるのやめます
アデコ
大田耕平
2007/2/3
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
転職活動をいざ始めてみると、想像以上に体力的にも精神的にも負担がかかるものです。意気込んで活動をスタートしたものの、実際の選考が始まると思ったとおりの結果にはならず、途中で就職活動を断念してしまう人も多いのではないでしょうか。また面接後の結果などを思い込みで判断してしまい、あきらめてしまう人もいると思います。
今回は、選考中に思わぬアクシデントに苦労したものの、最終的に希望の企業から採用内定を勝ち取った事例についてお話しします。
■Webアプリケーションを開発したい
小西さん(仮名・25歳)は大学在学中、所属ゼミの研究に力を注いでいたため、就職活動がうまく進まず希望の企業に入社できませんでした。大学卒業後は人材派遣会社に登録。派遣社員としてハードウェアベンダに常駐し、主にLinuxサーバの検証・評価テスト業務を担当していました。かねてからオープンソースによるWebアプリケーションの開発に興味を持っており、正社員として開発ができるポジションでの転職先を探していました。業務での開発経験はありませんでしたが、「開発がしたい」という大きな熱意を持って私のところに相談に来たのです。
紹介したのは、社員100人前後と規模は大きくないものの、Linuxによるサーバ構築からアプリケーションの開発までを大手クライアントから元請けとして受注している、技術力の高いシステム開発(SI)企業です。小西さんの「プログラミングから仕事ができて、将来的にはユーザーの要件定義など上流工程に携われる会社」という希望にぴったりでしたし、品質向上に力を入れ、上司のソースレビューなどでプログラムの品質を維持しているという方針も小西さんの技術志向に合致していました。早速書類を企業に提出したところ、「ぜひ一度お会いしたい」という回答をもらうことができました。
面接を控え、志望動機、派遣社員としてのこれまでの経験、業務での開発は未経験であるもののJavaやC++などの言語をIT系スクールで勉強していることなど、アピール点について何度も打ち合わせ、十分に整理しておきました。しかし面接の日、事件は突然発生したのです。
■「遅刻してしまうので辞退します」
当日、面接開始時刻の5分前になって、小西さんから電話がかかってきました。いきなりこういうのです。
「面接に遅刻してしまうので辞退しようと思います」
電話越しにも、小西さんが慌てふためき、冷静さを失っていることが分かりました。
話を聞いてみると、ターミナル駅で電車の乗り換えを間違え、このままでは面接に1時間遅れてしまうというのです。1時間も遅刻してしまうことの申し訳なさと、遅れて面接に向かう恥ずかしさから、面接自体が嫌になってしまったのかもしれません。「遅刻して面接を受けても、結果は決まっている」。本人はそういいます。
しかし、いまのいままで、どうしても入社したいと考えていた企業です。ここであきらめてしまったら、少しでも残っている可能性をゼロにしてしまうことになります。「小西さん、起きてしまったことは仕方ありません。まず初めに遅れてしまった事情を正直に説明したうえで面接に臨んでみてはどうでしょうか」と私は説得しました。小西さんも次第に冷静さを取り戻し、予定どおり面接を受けに会場に向かいました。
心は決まったものの、小西さんには遅れて面接会場に行く恥ずかしさがあったと思います。しかし、覚悟して面接に挑むことができたようです。
面接終了直後、本人から電話がありました。遅れてしまったことがマイナス点として見られたとは思うが、志望動機などは準備していたことを緊張せずに伝えることができ、後悔はないとのことでした。私も遅刻のことは非常に残念に思いましたが、本人の明るい声に少しホッとしたものです。
■まさかの内定!
数日後、小西さんから連絡がありました。結果はまさかまさかの大逆転! 企業から採用内定通知が届いたというのです。本人はびっくりしてしまい、確認のため電話をくれたのだそうです。もちろん、小西さんはすぐに転職を決意しました。
入社後、小西さんは面接官だった直属の上司に、面接時の評価について聞いてみたそうです。「君は志望動機がハッキリしていたし、それまでの経験を見て、今後きっとうちの会社で成長して活躍してくれると判断したんだ。それから面接に遅刻したことはもちろん良くないが、誠実な謝罪があったことでかえって好印象を持ったんだよ」と上司は説明してくれました。小西さんは、自分が思っていた以上に高く評価されていたのでした。
本来であれば、面接に遅れるということはあってはならないことです。しかしこのケースで、もしも小西さんが大幅な遅刻に気付いた時点で面接会場に行くことをあきらめ、選考を辞退していたら、このような結果にはなりませんでした。
lコミュニケーション能力に難あり?
田中さん(仮名)は30歳のネットワークエンジニアです。契約社員として大手SI企業に常駐し、ネットワーク関連のヘルプデスクを担当していました。契約期間終了後は正社員としての就業を約束されているのですが、期待されているポジションは現場のスーパーバイザー的な役割であり、技術的な知識が身に付けられないことに不安を感じているとのことでした。技術スキルを体系的に身に付けることができる企業で力を付けたいと考え、転職を決意して相談に来たのです。
私が初めて会ったとき、すでに田中さんは転職活動を始め、数社の面接を受けていました。その1つA社の面接の場で、田中さんは「君にはコミュニケーション能力がない」と強く指摘されてしまったそうです。それ以来、面接では必要以上に緊張してしまい、うまく自己アピールができなくなってしまっているようでした。
本人はヒューマンスキルを直接否定されてしまったことで、自信をなくしている状態でした。また契約期間が終わるまでに転職先を決めなくてはならないというプレッシャーから、精神的にも体力的にも疲れていることが見て取れました。
私が田中さんに紹介したB社は、社員1500人規模の比較的大きな企業で、大手ユーザ企業のネットワーク運用を主に行っていました。テクニカル、ヒューマン、マネジメント各分野の教育制度をしっかり持っており、田中さんにも気に入ってもらうことができました。
しかし、田中さんはこれまでの面接の結果から自信をなくしており、そのような大企業に入れるわけがないと思っていたようです。「面接となると緊張してしまいますし、コミュニケーション能力がないといわれたことまであるのです。どうしたらいいでしょう」という田中さんに、私はこのように伝えました。
「田中さん、もし緊張して答えに詰まってしまったら、ご自分から面接官に『緊張しています』といってしまっていいのですよ。あとは面接官に笑顔を見せましょう」。田中さんはうなずいたものの、とても不安そうに帰っていきました。その姿をいまでもはっきりと覚えています。
■「素晴らしいお人柄。ぜひ当社に」
さてB社の面接当日。時間は筆記試験も含め、3時間程度と聞いていました。終わってから少したったであろうという時間に、B社から連絡がありました。
「今日は1次面接と筆記試験の予定だったのですが、田中さんは人物的にとても素晴らしい方だったので役員面接まで行わせていただきました。本人にはすでに伝えてあるのですが、ぜひ当社に来てほしいとお伝えください」
私自身、まだ面接から数時間しかたっていなかったため、田中さんと連絡を取れていませんでした。そのため状況をつかめていなかったのですが、どうやら良い知らせのようでした。
田中さんと連絡を取ると、「ぜひB社でお世話になりたい」とのこと。非常に良い形で転職活動を終えることができました。
後日、B社の人事担当者にあらためて田中さんをどのように評価したのか確認してみました。すると、興味深い答えが返ってきました。
「技術スキルについては、まだこれから学んでほしい部分も多いのですが、お人柄が素晴らしく、特にコミュニケーション能力がとても高い方なので当社で活躍できると思ったのです」。何と、田中さんがB社で高く評価された点は、以前A社で強く否定されたコミュニケーション能力だったのです。
私もお会いしたときに思ったのですが、田中さんはそもそもヘルプデスクなどコミュニケーション能力を生かした仕事で活躍し、コミュニケーション能力は高い方なのです。
コミュニケーション能力については、どうやら企業によってとらえ方が異なるようです。ここからは推測ではありますが、A社でいうコミュニケーション能力とは、相手の意図を理解し、誤解なく意思の伝達ができる能力のことではなかったのかもしれません。田中さんは控えめな性格で、決して饒舌(じょうぜつ)な方ではありませんから。
■2人の共通点
今回は小西さん、田中さんの2人の事例を挙げました。皆さんが同じような状況に直面したとき、必ずしもこのような結果になるとは限りません。たいていの企業は面接に遅刻されれば良い印象を持ちませんし、面接時に緊張してしまい、うまく考えを伝えることができなければ採用に至らないのは当然かと思われます。
それにもかかわらず、2人は内定となりました。実は小西さんと田中さんには素晴らしい共通点があります。
・弱点やアクシデントをしっかりと把握して受け入れたこと
・困難な状況でもあきらめずに、前向きに気持ちを切り替えて転職活動を続けたこと
「この企業で働きたい」という気持ちを胸に、思わぬアクシデントにもくじけず、問題・課題を素直に受け止めて、前向きに動いたことが成功につながったのではないかと思います。
転職活動は想像以上のストレスになります。また思わぬ困難に遭ったとき、たった1人で判断を下すのは難しいことです。そのようなとき、第三者としてキャリアコンサルタントに相談するのも1つの手段だと思います。